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    SubwayBlack

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    初めて書いた元締の小説。この後、お土産と肋骨一本で手を打ちました←

    「待ちやがれっ!この野郎!!」

    怒声をあげながら、複数の人ならざる怪人達が前を走る男を追い掛けている。追い掛けられている男はちらりと後ろを見遣り舌打ちを漏らす。
    (面倒な事に巻き込まれた……)
    何処にでもいる男の姿をしているがそれは仮の姿。真の姿は筑前忍八剣衆元締を名乗り、株式会社悪の秘密結社の外部相談役の肩書きを持つヴィラン、修羅王丸だ。
    その修羅王丸が怪人達に追われている。
    怪人の中でも実力と名を馳せている修羅王丸なのだから、追い掛けている者達を返り討ちにするのは容易い。容易いのだが、些かタイミングが悪かった。
    今は表の仕事の最中で、得物を携帯していない。着ているスーツも取引用に用意した一張羅で汚すのも憚れる。
    全力で奴等から撒くのも手段ではあるが、撒いた後に再び突撃されるのも困る。しかもタイミングの悪い時と相場が決まっているものだ。
    弱小な者達というのは時も、場も、分も弁えない。

    「……仕方あるまい」

    修羅王丸は素早く曲がり、ビルの間の細い路地へと飛び込んだ。


    何回かの路地を曲がって行き、程好く幅の狭い袋小路に辿り着いた。

    「此処ならば善いか」

    修羅王丸は足を止め周りを見回すと、鞄を地面に置き擬態を解く。本来の姿に戻ると手を前に突き出し、手早く印を切る。
    目の前の景色が歪む。修羅王丸はその歪みの前に立ち、そこに爪先だけ入れる。
    それだけで相手も気付いただろう、まるで釣りでもしているようだと修羅王丸は笑みを浮かべる。

    「見つけたぞ!」

    背後から追い掛けていた怪人達、動かずにぎりぎりまで引き付ける。足音だけで距離を測る。
    怪人達は修羅王丸の背後に迫り、その背中に手を伸ばす。
    が、その背中が消えた。

    「なっ?!」

    代わりに存在する空間の歪みが。修羅王丸を捕らえようとしていた怪人達は止まる事も出来ず、自らの足で歪みの中に飛び込んで行った。
    軽やかに着地した修羅王丸は、腕を横に振って繋げた空間を閉じた。
    面倒なヴィランは別のヴィランにぶつけるにかぎる。
    ヒーロー達にぶつけるのもいいが、そうすると後々が面倒なのでしてはいない。

    『修羅ちゃん、いい加減シメられるぞ?』

    一度だけ、ヤバイ仮面から忠告された事はあるが、特に気にも留めていない。

    「おっと、もうこんな時間か」

    鞄に着いた砂を払うと、修羅王丸は腕時計を見て足早にその場から立ち去る。ビジネスは信用第一、遅刻などもってのほかだ。


    数日後、修羅王丸は闇の森へと足を踏み込んだ。濃い緑の匂いと深い闇の気配の中、いつもの陣羽織を揺らして歩く。
    様子を見に行かせた式神から『物凄くかんかんに怒っていた』と報告を聞き、福岡の銘菓を携えて訪れたのだ。
    ばさりと羽ばたく音が背後から聞こえて修羅王丸は振り返る、闇に溶け込んでしまいそうな黒い外套、黒いハット、顔の上半分を覆う仮面の男。闇の森を管轄するティーフェドルフだ。

    「邪魔しておるぞ、ティーフェドルフ」

    「これはこれは……ようこそお出でくださいました、修羅王丸様」

    片手を上げて声を掛ける修羅王丸に、帽子を胸元に持って行き慇懃に挨拶をするティーフェドルフ。付き合いは浅くない仲ではあるが、いつもより慇懃な態度に修羅王丸は違和感を感じる。

    「先日は、けっこうな物を送って頂き、誠にありがとうございます」

    帽子を被り直しながら、ティーフェドルフはにこやかな声で話しをするが、空気は決してにこやかではない。仮面の奥の暗紫色の瞳はまったく笑っていない。

    「ですが、貴方様にしては些か……嗜好に反した物で驚きました。修羅王丸様でもあの様な趣味をお持ちなのですね」

    回りくどい物言いではあるが、数日前に押し付けた雑魚ヴィランに対してまだ怒っているのだろう。

    (相当に怒っておるな)

    ティーフェドルフの怒りに呼応し、ざわつく森の気配をひしひしと感じながら修羅王丸は他人事の様に分析をする。相手をするのが面倒だからと雑魚を押し付けた事に対する罪悪感はまったくない。むしろ好都合だとも思っていた。
    それを口実に相手が己に全力で怒りをぶつけてくる、それを相手にする方が修羅王丸にとっては、雑魚を相手にするよりも後腐れがなく愉悦を感じる。
    修羅王丸は笑みを隠さずに得物の鯉口を切った。
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