ノノミツついにミツコの装甲外殻が欠けた。
生身を晒したミツコを見て、ノノカがぎゅっと手を握ってくる。
何度も繋いだ手、この五指を絡めて眠った夜も少なくない。ふたりで笑い、他愛のない話ができる、幸せだったあの日々。
もう、戻れないのだ。
ノノカの手は既に人間のソレではなく、歪で硬い皮がミツコの手を強く強く縛り付ける。
「ミッちゃん…ウチ…、イ、一緒に、」
握られた手に走るあまりにも酷い痛み、骨が折れ、肉に爪がくい込み、潰れていく。
それでも歯を食いしばってなんとか意識を保ち、ミツコはありったけの力を込めて叫ぶ。
「ノノカ!!!もうやめてってば……!!お願いだから、戻ってよ…!!!!」
もう息が持たない。
必死に叫べども虚しく、嗚呼、青が流れ込んでくる。
きずぐちから、ノノカがくれた青で満たされていく。
「ノノ、カ……」
これが、青。
ノノカの追い求めたモノ。
素晴らしい…?素晴らしいではないか。素晴らしいんだ。遥かなる青、群青、永久なる栄光──。
「違う…コレのせいで、ノノカは、あたしの、親友は……!!」
霞む視界と理性。それらをまるごと無視して、濁流の中に放られた意識を再び掻き集める。
全身全霊をもって全てを賭け、ミツコは己を奮い立たせた。
「ノノカ!!!!!ノノカ!!!!!!!お願いだから、あたしを見てよッ!!!!!!!!」
叫ぶ、叫ぶ、声の限りに、息の限りに、想いの限りに。
繋いだ手は離さない。離してなんてやるものか。
ミツコの覚悟を正面から受けたノノカの瞳が見開かれ、きらりと光る。
青き光の中、粒になって零れ離れたそれは、青に由来するものなどでは決してなかった。
「ミッちゃん……、ミッちゃん、ウチは、」
攻撃の手が止むことは無い。ミツコの手もとっくに原型を留めてなどいないし、外殻装甲を失った身体は壊れかけ。
揺らぐノノカはきっと何も感じていないわけではない。
ただ、引き戻すには明らかに決定打に欠けている。
(ノノカ……)
このままいけば、或いは希望もあったのかもしれない。しかし、ミツコには抗いようのない限界が迫っていた。
結局親友を救えない。ミツコでは足り得なかったのだ。
死にゆくということは辛いんだな、なんて、今更なことが頭に浮かぶ。
(悔しいなぁ…1ダースなんて軽く帳消しに出来たのに)
原因は酸欠か出血か『青』か、力の抜けていく身体はふわりと漂い、奇しくもノノカの胸中へと向かう。
ミツコの身体を受け止めたノノカの反応を伺うことは、もう出来なかった。