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    愁さん

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    愁さん

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    SS◇ぺろとぬら 2

    ##SS

    風邪◆ぺろとぬら 身体が重い。頭もガンガンする。それに喉だって痛いし、体温の上昇は解るのに悪寒もしてくる。ぬらは目覚めと共に身体に違和感を感じていた。
     まさかこんなに健康に気をつけている自分が風邪をひいてしまうなんて!
     
     ◇
     
     原稿を一段落しお腹を空かせたぺろは、リビングへと向かっていた。朝ごはんの事を脳裏に浮かべると、ぐう、とお腹が鳴る。携帯電話の画面の時計では丁度七時。こんな時間まで起きていられるのは今日が夏休みだからである。
     味噌汁、魚、白米、その他おかず色々、日本の一般的な朝食(とは言ってもいつもそれ以上に手が込んである)を好むぬらが、ほぼ毎朝食事を作ってくれるお陰で部屋に入る前の廊下から既に美味しそうな匂いが漂ってくる筈なのだが、今日はそれが無かった。
     随分と静まりかえったリビングに到着する。朝は空きっぱなしの扉も閉まったままであり、開けて入ってみると人の気配も無いし、食卓の上を確認するも何も並んではいない。
     何時もならこの時間はぬらがとっくに起きているし、朝食を作り終えている時間だ。昨日はちゃんと家に居てやすみの挨拶も言えたから、起きていなくて朝食が無いのはおかしい事であった。
     嫌い合っていると言えど、普段の流れが違うと心配になったぺろは、ぬらの様子を確認しに行く事にした。
     
     まさか、ぬらが寝坊? それならば、いつも詰られている事のちょっぴり仕返しに冷やかす事もできる。
    「██、入るぞ」
     部屋の襖開けると、そこには真っ赤な顔でぐったりと布団に寝そべるぬらの姿があった。そんな姿を見てしまうと、冷やかす気は一気に失せてしまう。
    「グッモーニン! ブラザー」
    「…ん」
     普段はしゃきっとしているぬらとは一変、今はぼんやりとした表情で目も潤んでいるのが解った。
    「ふーむ…もしかして、熱でもあるか?」
     ぺろはぬらにの枕元に近づいて正座で座り、床に片手を付き少し前に乗り出す。
     どれほどの熱さであるのかと、顔を近寄せて額と額を併せようとすると、その動作にぬらは少し眉を寄せたが、抵抗する気力も無いのかゆっくりと瞳を閉じた。全く同じ片割れの顔を近くで眺めるのは久しぶりな事で、軽く触れた部分からじんわりと熱が伝わってくる。紛れもなく自分の体温とは違くて、酷く熱い。
    「ふぅん、ベリーホットっ! 風邪でも拗らせたのかい?」
     同じ等身の俺達なのに、今はぬらが小さく見えてしまう。滅多に風邪なんかひかないし、弱っている姿を中々見せないからだ。
    「…最悪だ…。うつされた…かも、あたま…いたい」
    「珍しいな。…大丈夫か、君はあまり慣れて無いから…辛いだろう」
     何時もの声のトーンでは頭に響くかもしれないから、控えめにする。
     
     ぬらが風邪をひいたのを最後に見たのは俺達が仲を悪くして直ぐくらいのもので、その時は父さんが付きっきりで看病をしていたのを覚えている。まだ幾分か小さかったが俺は自由に外を出歩けたから、こっそりプリンを買ってきてぬらにあげようとしたら、要らないとそっぽを向かれたっけ。喧嘩したにも関わらず、何となく気になってしまい看病をしようと試みたが、当時お前は近づくなとぬらに言われたのだった。
    「待っていろ、今俺が看病してやるから。一先ず…水枕、冷たいタオルと、ポカルスエットだろ、それから…食欲は?」
    「……無い。調理はするな…絶対だぞ」
    「…はいはい、解ってるよ。ああ、もしも食べれる時用にレトルトのおかゆなんか後で買ってこないとな」
    「…ぷりん。僕はぷりんが食べたい」
    「…ぷっ、食欲が無いくせにプリンは食べたいのかい? そうだなプリンだってアイスだって買ってきてやろうじゃないか」
    「笑うな」
     現在、父も母も仕事から帰って来ないから俺達は二人きりで、こうして俺が看病しようとしてもぬらはあの時とは違い受け入れている。紆余曲折あったが、俺達はもしかしたらいい方向に進んでるのではないか? まぁ、勿論この子に嫌われているのは解っているのだが。
     
     ◇
     
     ぺろはそのまま出かけようと軽く身支度を済まし、サングラスもきっちり掛けた後に水枕と、氷水の入った桶とタオルを用意してぬらの元へ戻った。
     枕を取り替えるにもぬらは脱力仕切った様子だったから、頭を持ち上げて差し替る。ぬらは「用意が遅いな」等と文句を言っていたが病人相手に意地悪はフェアじゃないから止そう、と思う。
     それからシャツの袖を捲り、氷水にタオルを浸してから、ギュウ、と絞った。
    「ほら、お待ちかねの…気持ち良いやつだぞぉ? フゥン、これが…欲しかったんだろう」
     ぬらの少々汗のせいかしっとりとした、綺麗な薄浅葱の前髪を片手で軽く避ける。
    「ん………」
     するとぬらの布団から出ていて頭の近くにあった手が、ぺろの手を掴んだ。それはぬらの頬へと持っていかれて、ぴったりとくっつけられる。熱のせいか元々トロンとしていた目は、気持ちよさそうに細まっていた。
    「…お、おや?」
    「██の手、冷たくて…きもちい……」
     ぺろはその表情を見て手を引っ込めれないでいた。サングラス越しだが、顔が赤いのも目が潤んでいるのも解る。俺と、同じ顔。俺も風邪の時こんな顔をするのか、等と頭の中で色々な考えを巡らせてしまう。が、それは直ぐに現実に引き戻された。
    「…、あ…、違うぞ、お前の手が…冷たかったからで……もう、気色悪いな…」
     ぬらに直ぐに手をペッと振り払われる。支離滅裂な言い訳をしていて、風邪だからおかしいのも仕方無いのかもしれない。しかし前言撤回、これは意地悪はして良い案件だ。
    「いや、君がやったんだろ? そんな事言っていたら…これはあげなくていいのかい?」
    「…や、やだ…欲しい…。…悪かった…」
     病気になると何時もより素直になるのか、とぺろは言いかけたが言葉を飲み込んだ。氷水で冷えたタオルを、ゆっくり丁寧にぬらの額に乗せる。
    「手なんかより…こっちのがずっといい」
    「そうに決まってるぞっ」
     ふは、と笑いが漏れる。そりゃあ手が良いと言われたら驚くだろう。じっと見下ろしていると、ぬらは居心地悪そうに目をギュっと瞑った。
    「…じゃあそろそろ買い出しに行ってくるな。スマホは持っていってるし、何かあったら連絡してくれよ」
     ほんの何となく、ぬらの丸い頭の形に手を伸ばしたくなって、撫でてから立ち上がる。
    「…解った」
     ぬらは微動だにせず、その事については特に触れなかった。ぺろは部屋を後にした。
     
     ◇
     
     必要そうな物と、要望通りのプリンと、それからスマホでググると効率よく栄養が取れると書いてあったバニラアイスの入った袋を持ってぬらの元に戻った。
    「ただいま」
    「…ん」
    「言ってた通りプリンも買ってきたぞ」
    「ぷりん…あいす…冷たいやつ、食べたい」
    「はいはい」
     三つ連なる定番のよくあるツルッとしたプッチンできるタイプのプリンを一つ取り出す。
    「座れるか?」
    「…」
     中々ならない風邪に堪えているのかぬらは首を横に微かに振った。ぺろは仕方ないなと店で付けて貰った小さなスプーンの封を開けて、プリンの蓋を捲る。
    「普段じゃこんな行儀の悪い事、絶対できないな」
    「な、僕のぷりんを目の前で…食べるのか…?」
    「そんな訳」
     柔らかなプリンを小さく掬う。ぬらがじぃ、と見てくるものだからそのまま食べてやろうかとも一瞬考えたが俺はそんな鬼では無い。寝たままのぬらの口元にゆっくりそれを持っていく。薄く開かれた唇にプリンを落とした。
    「んむ…」
    「美味いか?」
     ぬらはゆっくりと口に入ったプリンを味わう。ツルツルした食感のそれは、高級品なんかでは無い何処にでも売っているようなものだが、好きだった。それまで甘味は和菓子しか口にした事が無かったが、初めてそれを食べた時は衝撃を受けた事を思い出した。甘くて美味しかった。
     ぺろは飲み込んだ事を確認してから、プリンをまた一掬いし口に入れていく。数回で無くなったが、口に含んだぬらは満足そうにしていたので一安心する。
    「ああ、アイスもあるんだ。溶けてしまうといけないな…今食べるか?」
    「あいすも食べる」
     
     
     
     ◆
     
     
     
     それから暫くた経ち​───
    「向烏之辺りも風邪を引いてしまえばいいんだ、ネギで首を締め…いやネギを巻いてやらないとな」
    「ハッハ、もう随分元気じゃあないか」
     ピピッと体温計が止まってぬらが確認するのを覗き込むと体温は37.2度だった。もうすぐこの看病も終えようとしている。大人しいぬらも悪くないな、とネタの幅の広がりに思案を巡らせた。
     何だかんだ、この片割れは俺が風邪を引けば文句を言いながらも丁寧に看病してくれるのだろう。
    「君の作ったご飯が早く食べたいものだ」
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