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    かいこう

    @kaikoh_h

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    かいこう

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    ままならない/ダニーとスティーヴ

    ##H5O

    ままならない※s10のドリスの回を見て…勢い任せなのでいろいろあれです


    「おやすみ」
    「ああ、おやすみ」
     部屋の電気が消され、ダニーは靴を脱いだ足をソファに上げた。長いフライトの後だったので伸び伸びと手足を伸ばしたかったが、ソファの座面はそこまで大きくない。自分の身長でも膝を曲げなけりゃならないなんて、とダニーはわざと嘲笑めいたことを思った。思いどおりにはならない。辿り着いたホテルのこの部屋で、差し出されたビールを手に向かい合ったスティーヴの言葉がずっと頭の中に響いていた。暗闇の中でスティーヴが横たわっているベッドに目を凝らす。人生なんてそんなもんだ。今日までのことで思いどおりになったことと、ならなかったことを振り分ければ、断然後の方が多い。そもそも、ハワイに来るつもりなんてなかった。ファイブ・オーに入るつもりも、こんなにも長く暮らすつもりも、排他的なところがあって海が嫌いな自分が故郷だ家族だと愛するつもりも…ソファの上でダニーは身じろぐ。スティーヴのベッドからは何も音が聞こえてこなかった。思いどおりにならない。そうだ、こんなに愛するつもりじゃなかった。ダニーはシャワーを済ませた後の下着姿の自分が、今からスティーヴのベッドにもぐり込む姿を想像してみる。あるいはスティーヴから呼ばれるのだ。悲しみでかすれた声で、こっちに来てくれと。からだがじんわりと熱くなってきた。今いるソファから、スティーヴのベッドへと移動することが、ダニーにとっての思いどおり。だがダニーはこの気持ちをスティーヴに打ち明けるつもりはなかった。だからこの瞬間もまた、思いどおり…例え何やかんやあってそういう仲になっていたとしても、うまく心を癒せるとは限らない。いくらからだが近くても、心の距離もそうだとは限らないのだ。レイチェルとぎすぎすしていた頃が脳裏に浮かぶ。そんな痛みをスティーヴと味わうぐらいなら今の関係のままでよかった。そう、人生は思いどおりになっている。あるいは初めは激しかった恋の熱も、そばにいる時間が長くなるにつれ、どんどんと凪いでいった。今はもう、自分以外の人間と親密になっても胸は苦しくならない。どうかいい人生を送ってくれと願うばかりに、ここ何年かはいい相手をつくれとけしかけもした。どうかいい選択をしてくれ…ああ、でも…人生は思いどおりにはならない…思うに任せられない。自分の、あるいは子どもたちの、友人たちの、もう少し遠い人たちの、ままならない人生の苦味が、とめどなく頭の中に溢れた。今夜は流されることなく、これまでの人生のあれこれを乗り越えてきた男の目で、血のかよった生温かい理不尽の放流を眺める。部屋の暗闇から滲むように、羽根を広げた柔らかい烏のような大きくてつかみどころのない眠気が瞼を重くした。ベッドに横たわったスティーヴは身動きひとつしない。自分の臆病さ、後ろ向きさは理解していた。同時に、今のスティーヴと恋人でなくても、唇へのキスやセックスでなくても、彼を支えられることが分かっている賢さもある。いくら尽力してもすくった海水が手から垂れてしまうことも、当然頭にあった。この身につまったスティーヴへの愛情など無意味かもしれない。受け取れと言うことも暴力だ。愛なんてそんなもの。それほど美しくも尊くも無性に大事に受け取ってもらえるものでもなかった。人生は思いどおりにはならない。ダニーは眠ろうとした。日を重ねるごとに重くなるからだ、突然もたらされる悲劇、罪や選択の代償、愛する男にこれっぽっちも優しくない人生を送るために。図々しく自分を呼ぶ声やからだがシーツをすべる音がしないかと耳を澄ましている内に、ダニーは深く寝入っていた。
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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