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    かいこう

    @kaikoh_h

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    かいこう

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    ベテラン/花流
    かわいそうなりょーちゃんとバカップルの片割れるかわくん
    花流の日まで後11日~

    ベテラン 他には誰もいないチームのトレーニングルームの片隅で、流川と話し込んでいた男が立ち上がった。その若手は怪我でしばらくチームから離れなければならず、気持ちが荒んでいたようだが、憧れでありチームメイトでもある流川との面談で、感情が落ち着いたらしく、穏やかな顔つきで目元を拭っている。トレーニングルームの入り口で、流川に向かってひとつ頭を下げた彼が、こっちに近づいてくるのに、出入り口に立っていた宮城は片手を上げた。出て行く前に、流川と話すようアドバイスしたことへのお礼を言われる。大したことはしてない、チームメイト全員が復帰を待ってる、焦らずに治療に取り組んでくれ、と伝えて見送った。病院から検査結果を伝えに来た時は沈んでいた目の色に活気が戻り、明るく潤んでいる。口元も頬も溌剌としていた。どんな理由であれ、バスケットをやりたい人間がバスケットができない状態に陥るというのは、辛い。どうか乗り越えてチームに戻ってきてほしい…背中が見えなくなるまで、祈るような気持ちで見つめてから、流川の元へと赴いた。
    「お疲れさん」
    「ウス」
    「お前に任せてよかったよ、あいつ、ここに来た時はひどい顔色だったけど、だいぶ明るくなってた」
    「っす」
    「どうやって元気づけたかって聞いてもいいか?」
     流川に倣って床に座りながら尋ねる。後から渡米してくるのは流川自身が一年の頃から口にしていたから当然のことだと思っていたが、日本に戻った自分に遅れて帰国した流川と、日本のプロリーグで同じチームになったのは驚いた。こうして練習を終えたくたびれたからだで横に座っていると高校時分の体育館を思い出すが、流川の横顔にも、そして視界に映る己の手足にも、あの日から今日までの年月がしっかりと刻まれている。
    「俺の辛かった話が聞きたいっつーんで、ご存知のとおり俺には結婚して十一年になるどあほうがいるんですが」
    「よーく知ってる、えっ?待て、もしかしてこれ惚気かっ?」
    「この前どあほうを怒らせちまって、なんでかっつーと、つき合ってた時にお互いに買ってプレゼントし合った、どあほうから貰った指輪を俺がベッドと棚の隙間に落としてたからで、まあずいぶん前のもんだし別にいいけどって言いながら全然いいけどってツラしてなくて、雑に扱いやがってとか俺は大事にしてんのにとかもういらねぇなら返せってやっぱぶつぶつ言い出して、俺はそんなガキの頃の指輪でプリプリ怒ってるどあほうが可愛くて俺のこと好きっつーのがビンビン伝わってきて、だけど怒らせておきたいわけじゃねーから、正直に、遠征でどあほうが居ない時に、それ見てヌイてたけど、ティッシュ取る時にどっかやっちまってめちゃくちゃ探してた、見つけてくれてよかった、もうなくさねーって言ったら、まだプリプリしながら、でももう全然怒ってねー声で、今度からは気つけろよって言ってくれたって話したら、今の宮城サンみてーにちょっと泣き出して、何か、聞けてよかったって」
    「あいつ凄いな、ほんと、俺のこの涙はあー聞くんじゃなかったっていう後悔の泣きだけど、あいつは今の話から前向きになれる何かをつかんだんだろ?マジで尊敬する、あいつなら絶対怪我を治して戻ってくる」
    「俺もそー思うっス」
     ていうか多分あいつは、ベテランと呼ばれるぐらい長くバスケットをプレイしてきた人間の懊悩とか、アメリカ時代の苦労とかを聞きたかったんじゃないか、と宮城は思った。
    「きっとお前が冗談言って笑わせてくれようとしたって感じたんじゃねぇかな、コートの上じゃキレッキレのプレイをするお前にさ、そういう親しみやすさもあるんだって、こう…恐らく…分からん…」
    「いや事実」
    「知ってるよ!俺は高校からのお前と花道のこの馬鹿みたいなカップル話を知ってるからよぉ、別に知りたくねぇのに、何で花道との話をする時だけ早口なんだよ」
    「どあほうとの関係のベテランなんで」
    「あー、クソ!おめでとうな結婚十一年!」
    「ウス」
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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