無題「Good evening, Shadow.」
波音しか聞こえない世界に、静かに声が響いた。振り返らなくても、声の正体は分かる。
「…またか。」
「ご挨拶だな。俺が行く所に、たまたまお前がいるんだろ?」
くだらない、そう判断して黙りこむと相手も何も言ってこない。
…足音が近づいてくる。やれやれ、とでもいいたげに。少し離れて隣に来たが、それ以上は踏み込んでこない。
「今日も、任務が終わったあとのお散歩か?」
「答える義理はない。」
「…相変わらず冷たいねぇ。」
こちらの心中を知ってか知らずか、なおも軽口をたたいてくる。
…深いため息をついた。
待ち合わせをしていたわけでもなく、お互いを見つけようとしていたわけでもない。
ただ、視界に入っただけ。それだけだった。
「…そっちこそ、用事があるならさっさと目的地に向かったらどうだ?」
「俺にとっては、ゴールがないのがルーティーンなんでね。」
たわいもないやり取り。
この関係が心地よいと思えたのは、いつからだったか。踏み出さないように、己を律したのも同じ頃だった。
生温い潮風が頬を撫でる。
ざっ、と砂音が隣から聞こえて冷水をかけられたように目が覚める。
―これ以上は、一緒にいてはいけない。
この熱は、蒸し暑さからくるものだ。じめじめして、不愉快で、まとわりついてくる熱。
ソニックに近付かれる前に、カオスエメラルドを取り出して、そっとつぶやいた。
逃げるように移動した先のビル街の屋上で、壁に寄りかかる。胸にこもった熱を押し出すように、息を吐く。
「…だから、夏は嫌いなんだ。」
ずるずると、座りこみ俯いた。