青天白日「川だ!水汲みだ!水浴びだー!」
「マスター!」
飲み水を確保するなり服を脱いで川に飛び込んだ藤丸は、冷たい気持ち良いお風呂最高とはしゃいでいる。川であって風呂では無いが、それでも数日振りに体を清められるというその事自体が嬉しいのだろう。マスターの姿に続く同行サーヴァント達にアルジュナも倣う事にしようと服に手をかける。
その横で、ぱちゃ、と軽い音がした。
「どうした、入らんのか」
「イ、……いえ。その」
「楽にしろ。お前も我が息子である事はわかる。……神のアルジュナとは違うようだが」
曖昧な相槌を打って横に座る存在から半歩離れる。そこで川に足だけを浸しているのは確かにインドラだ、だけどカルデアで見慣れたあの長身の姿では無い。今のインドラは背丈はあるが薄く細い少女にも似た体格で、象牙色の髪は長く地面に流れている。己をマーニーと名乗るその神は、隔たれ消えた筈の異聞帯でのインドラの姿だった。
「どうせなら我が夫も連れて入って欲しいものだな。土埃で撫で心地が悪くて敵わん」
「そっ、う、ですか」
「そうだ。頼んだぞ。ではな、あッ!?」
視線を逸らしていて気付かなかったのは、隣にいた筈のインドラにかかった影だった。足音も無く――歩いていないので――立ち上がろうとしていたインドラを腕に抱えているもう一人の自分も、今は藤丸に召喚されたものでは無い。
インド異聞帯に於いて、自分も、藤丸も、カルデアの誰も知らない歴史の一頁があった。
「ひょいひょい抱き上げるな!今は歩けると言っているだろう」
「汚れます。どうか貴方の足となる栄誉をもう一度」
腕は宝玉を抱くが如く、瞳は愛おしそうにインドラを見つめている。一つの世界で全ての神を取り込んだアルジュナ、サーヴァントとして召喚された自分とは異なるアルジュナ・オルタ。
このアルジュナとインドラは、夫婦として一時を過ごしたらしい。