【末川】ケーキバース~前編~俺は甘い物が好きだった。
もう10年以上前に口にした甘味を思い出しながら、ゆっくりと角砂糖を口に運ぶ。
ザラザラと口の中で形を崩し、唾液と体温でドロドロに溶けるそれは、常人に例えると「砂」を口にしているような感覚でとても美味しいとは言い難い。
とはいえ、糖分を取るという面では「フォーク」も「普通の人間」も変わりないようで、頭の回転が早くなるという理由でいつからか角砂糖を持ち歩くようになっていた。
俺は壁にかかっている時計を確認する。
時刻は午前7時半。
今日は看守の研修初日だったが、少し早く来すぎたらしい。
小さな会議室にコの字に並べられた机の1番奥の席に座る俺には、部屋の冷房の微調整しかやることがない。
「甘いもの、食べたいなぁ……。」
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