龍船節 紛総総其離合兮
斑陸離其上下
吾令帝閽開関兮
倚閶闔而望予
「それは――炎国の詩?」
眼前の光景に、詩を口ずさんでいたのは、無意識のことだった。祭日に浮かれる街の、香辛料のような喧騒が、澱粉でとろみを付けたような大気と混ざって肌に纏わり付く。人々でごった返す道路を歩くと、アスファルトと油が靴底でべたついた。空気は熟しすぎた果実のように、腐臭と芳香がないまぜになっており、けれど隣にいるドクターの笑い声が、快も不快も押し流していく。途中の屋台で買ったちまきをあぐあぐと食べていたドクターは、返答を求めてこちらを見ていた。
「昔の政治家が詠んだ詩ですよ」
何を詠ったものなのか――という問いかけを、街中に響くような轟音がかき消す。それは、この街を何日も前から浮足立たせているレースの開始を告げる音だった。川辺りに用意された観客席にいた人々が一斉に身を乗り出し、固唾を飲んで運河を駆けて行くボートを見守っていた。
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