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    ariri1630

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    ariri1630

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    平和軸松ガスの同棲幻覚2 初夜導入篇
    かっこいい山田はいません。続きを書くには僕口調が難しすぎたので、本番は三人称で書きます。
    ごちゃついてるのでなんでも許せる方向け。

    松ガス小話2 すでにそれは見慣れた天井だった。
     無駄に大きなベッドで大の字になって、暗闇の中でぐるぐると思考が巡る。いつもどおり部屋着に拝借している松田さんのシャツから伸びる剥き出しの腕が、そわそわして落ち着かない。今日に限ってはスェットを履いてしまう、自分の緊張が誰かに見透かされているようで、両足の爪先を重ねるように擦り合わせてみたり、する。
     いつもなら、シャワーを済ませて、髪も乾かして、この世の極楽と言える高級マットレスに体を投げ出せばあとは泥みたいに寝るだけ。なのに、閉じたドアの向こうからシャワーの水音が聞こえるんじゃないかと神経が尖って仕方ない。初めてホテルに来た十代の若者でもあるまいし、少しは落ち着きたいのに。
    「すぅ……はああああぁ……」
     深呼吸のつもりが声しか出ていない。
    「……情けな」
     意味もなく寝返りを打って、並べた枕から不意に漂ってくる松田さんの匂いに心臓が跳ねる。いや、ほんとに、我ながら気持ち悪いとは思いつつそういうのは意識の統制の範囲外というか。
     松田さんの枕に横顔を埋めたまま、もう一度深呼吸した。今度は肺の奥までちゃんと呼吸できたみたいだ。

     そもそも、なぜこんな緊張を強いられないといけないのか。食後にコーヒーを飲みながら、ソファに座る松田さんはテレビ、床に座ってソファを背もたれにする僕はタブレットを見ていて。そういえば、と思い立ったから口に出した一言が引き金になってしまったようだった。
    「もう一ヶ月経つね。松田さんが僕にキスしてから」
     地雷だ。口に出してから、数秒間をおいて、自分の考えのなさに喉が狭くなってヒュウと音がした気がする。
    「いや、今見てた記事がね、付き合ってからどのくらいの期間でヤるかってやつで、あー……」
     更なる地雷を踏んだ。
    「他意は、ないんだけど」
    「ほうか」
     今までになく気の抜けた返事に、背中に汗がどっと溢れた。
     他意はない、と言いつつ、今の関係がなんなんだろうとはぼんやり思っていたから、つい口にしてしまったのはあるんだけど。後先を考えずに口に出したせいでこんなにも居た堪れない。
     一緒に暮らすようになってからしばらくして、いろいろあってスキンシップが増えて、その延長というには密な関わりになってしまって、何を思ったのか松田さんから始めたキスは、いつの間にか習慣みたいにぽつぽつと繰り返されて。だけどそれはどんな感情を伴っているのか、僕にはこの人の心が全く読めない。触れるだけのことだから、挨拶とか言われたらそうなのかもしれないけど、西と東でコミュニケーション文化がそこまで違うってことないでしょ。もしそうなら僕は関西が怖い。
     タブレットを持つ両手にも汗がにじんできたとき、頭上から松田さんの低い声が降ってきて。
    「おん」
    「はい……」
     気まずさに視線を向けられずにいると、唐突に伸びてきた大きな手が僕の頬を掴み、振り向かされたと思った時にはもう距離はなくて。
     塞がれた唇の、いつも通り柔らかく触れるだけの感触に目を瞬いていると、松田さんはおもむろに立ち上がり、
    「煙草買ってくる。先シャワー浴びとけ」
     と、言い残してドアの向こうに消えてしまったのだった。

    「……そして、今に至る」
     一通り回想を済ませたところで疲れてしまい、ぐったりと全身が力を抜けた。あのあとドライヤー中に帰宅した松田さんは後ろを素通りしてバスルームに行ってしまったので、逃げるように寝室に引っ込んできたのだ。
     完全に自業自得だけど、つまり今僕は、松田さんがこの寝室に入ってくるのを待っているまな板の上の鯉だか鮪だかで、何をやってるのか自己嫌悪が激しくのしかかってくる。
     そもそもは、あんな下世話な記事を見た時に、松田さんが僕をどう思って扱ってるのかが気になったのが発端だったのに。そう思ってることを聞けず妙な流れになってしまったものだ。いいや、松田さんが来たらそのまま伝えて済まそう。
     ……伝えられるだろうか? あんた僕のことどう思ってるんだよ、なんて、自意識過剰なメンヘラ女子みたいなテンションになりかねない。そもそも気持ち悪くないかな、そんなこと聞かれるの。いやいや、そもそもなんでキスとかしてくんの。キッチンとか洗面所で居合わせたら大体するし、すれ違ってもだし、人が寝ててもしてくるし。そりゃあどう思って何してんのって聞きたくなるじゃん。
    「……だめだ、助けろきのこー……」
     呻いても友人が答えてくれるわけもなく、支離滅裂な思考に蓋をするように布団を肩まできっちりと被った。
     深く、息を吸う。そろそろ洗濯しなきゃと言ってたけど、枕カバーに残る松田さんの匂いは、不快感なく胸を満たした。いろいろな考えでごちゃついた頭の奥が、少しだけ鈍く痺れる。
     先にシャワー浴びろって、絶対そういうことだよね。
     呼吸するたびに沁み入ってくる匂いに、鼓動が早くなってしまう。血流が下半身に向かい、落ち着かなくて膝を擦り合わせた。目の端が熱く重くなる。このまま触れてしまおうか、少しくらいなら、いいかな。
    「なんや寝とんかいな」
    「ひっ……!」
     指先がスウェットの膨らみを掠めるのと、寝室のドアが開いて声をかけられるのが同時だった。すんでのことろで驚いた声を押し殺したものの、布団にくるまったまま不自然に固まってしまったので肩の緊張が苦しい。
    「あ? まじで寝とる? 人のこと煽っといてなんやねん」
     いや、煽った覚えはございません。最近の行動といい発言といい、松田さんが異次元に行ってしまっているだけで。
     何やらビニールをガサガサ鳴らせて、松田さんはベッドに腰掛けたようだった。マットレスが無駄にいいものだから衝撃はさほどなくて、このままなら確かに狸寝入りで逃げ切れるかもしれないと腹積りする。
     が、松田さん曰く僕の目論見はいつも詰めが甘いらしく、今回も例に漏れずそうだったようで、緊張する肩にかけられた大きな手が僕を仰向けにするので思わず目を見開いてしまう。
    「起きとるやないか」
    「あ、いや、えと……」
     もしかして、また勝手にキスしようとしてましたか。
    「狸寝入りしとったんか、なんや人のことよう振り回すやっちゃの」
    「別にそういうつもりはぁー……」
     あったけど。
     もごもご口澱みながらもう一度背を向けると、松田さんは僕の後ろに寝転んで布団を引いて胸まで被った。一気にベッドの中の温度が上がった気がして、相変わらず体温高いんだなぁ。
    「……松田さん」
    「おん」
    「何してんの……」
    「丸っこい頭やなぁと思て」
     恐らく横になって頬杖を突いているんだろう、松田さんが後ろから僕の頭をわしわしと撫でるので、ゆるく視界が揺れる。思ったより穏便そうな空気で少し気が緩んだ。それと同時に、松田さんに僕のことをどう思ってるかなんて聞く気も失せてくる。
     徐々に撫でられる手のリズムもゆっくりになってきて、これはこれで気恥ずかしいけど眠気を誘う。さっきまで乱高下していた情緒が嘘みたいに凪いできて、これでは松田さんにヒスるなと揶揄されても仕方がないな。っていうか松田さんが何したいのかもよくわからないし、考えるのも疲れる。
     重たくなってきた瞼に瞬きが増えた。このまま沈むように眠りたい……けど、再び肩を引かれ仰向けになったときには、時すでに遅し。
     いつもの、触れるだけのキスが降る。何度か唇を啄まれると静かな寝室にリップ音が響いた。
    「ん、ま、つださん……? っ、ちょっと、ま、んむ……」
     顔の角度が変わると、互いの鼻が擦れたり、それがまたくすぐったい。制止しようとした手を絡め取られ、指が噛み合わない中途半端な恋人繋ぎみたいな形でベッドに縫い止められる。大きな手と、重なってくる厚い体が、松田さんの重みが僕を組み敷いている。跳ね除けられない重みと、拒むには、心地よい熱。
     思わず体の力が抜けてしまって特に抵抗もせずにいたとき、
    「ふ、……ん、んぅっ……?」
     食むように合わせられていただけの唇に、唐突に生々しい感触が口内に割り入ってきた。強いメントールの風味が直接重なる舌に伝わって、驚いて体が跳ねる。顎を支えられてその震えさえ押し込まれるように封じられて、強引に絡んでくる口内の熱から逃げるのに必死になった。口の端から漏れる息も声も、耳を塞ぎたくなるようないやらしい響きだ。松田さんの大きな口に食べられる、感覚。
    「……っは、ちょ、すとっぷ、息もたない……!」
    「あ? なんやえらいウブやな、カマトトぶらんでええんやぞ」
    「かっ……、そんなんじゃないけど、いや、まず冷静になろうよそもそも何してん、の……」
     やっと解放されて空回る勢いで飛び出た語尾が失速したのは、僕を組み敷いて見下ろしてくる松田さんの目が、すーっと白けて呆れを通り越して怒りすら感じさせる冷たさを帯びたせいだ。こういう顔もよく見るけど、体勢だけにいつもより迫力がある。
    「何って、お前なぁ……言ってること二転三転しすぎちゃうんか」
    「え?」
     待って、僕が何を言いましたか。
    「ま、待ってよネットの記事の話? あれはほんとたまたま見てただけで……」
    「……っち」
     舌打ちとともに、松田さんの体温が離れていく。握られていた手にも、重なっていた唇にも、湿度と熱を残して。
     追いかけるように体を起こすと、こちらに背を向けた松田さんが乱暴に自分の頭を掻いていた。どうしてか、逞しい背中がどこかいじけたように見える。
    「ほうか、なんやえらい勘違いして盛り上がってすまんかったな。起こしてもたな、さっさと寝ぇや」
    「えっ」
    「ちっ……なんやねん」
    「松田さん、盛り上がってたの?」
    「はぁ?」
     まるで音が聞こえそうなずっこけ具合に、思わず僕までひっくり返りそうになる。
     二人で顔を見合わせて、いやいや、そもそもそっちが、と視線での非言語コミュニケーション。
     そんなもので意思が伝わるわけもなく、僕は腕組みして頬に手を当て、松田さんは何か言いたげに目線を天井に泳がせた。数秒か数分か、何度目かの気まずい間が降りる。
    「あー……いや、お前、この流れで何するかわかっとらんてことはないわな?」
    「あ、ご心配なくそこまで疎くないけど……そうじゃなくて、その、松田さんは……あー……」
    「なんや。溜めんな」
    「その、僕とそういうことしたいってこと? でいいの?」
    「はぁあ?」
     久しぶりに聞く声量が返ってきた。心底呆れているというか、怒っているというか、やがて諦めたような深すぎるため息が吐き出される。
    「あんな……お前、それはな……」
     語彙力を失くす松田さんの表情は、この十分足らずで強烈な疲労感を醸していた。寝室の闇に慣れた目で、眉間の深い皺を観察してしまう。
    「逆に、なんでそこ引っかかっとんねん」
     予想外に聞き返されて、うまく反応できなかった。数秒の逡巡で痺れを切らしたせっかちな松田さんが、もう一度ため息をついて僕の腕を引く。
    「んわっ」
    「なんや思うことあるんやったら先言うとけ。お前の頭ん中想像したんのも限界やわ」
     それはこっちのセリフ、と反論したかったけど、抱きしめられた背中越しに感じる松田さんの吐息とか心音になんとなくごまかされしまう。
    「え……っと、思うところっていうか、気になるところっていうか……」
    「おん」
    「松田さんにとって……僕ってそういう対象になるの? セックスしたいって思う?」
    「っ」
    「人を抱えながらずっこけるなんて、松田さん器用だね」
    「出身のさがやな……やなくて、なんなんや、お前……」
     珍しく松田さんが口ごもる側だ。どういう心境でか、今日はため息ばかり吐いてるな、この人。
    「この状況でそれがわからんのは、宇宙人かなんかやろ……」
     肩口に松田さんの顔が埋められる。ふわりと湯上がりの匂いがして、その格好のまま、僕の両手をとって感触を確かめるように触れてくる指は、心なしか優しい。
    「だって、松田さんの好みじゃなくない」
    「俺の何を知っとんねん」
    「派手顔巨乳好きと見せかけて清純そうな巨乳が好きでしょ」
    「はぁ、お前なに勝手に人のスマホ見とるんや」
    「スマホに保存してるの? 好みは完全に推測なんだけど」
    「……性格わっる」
    「だからさ」
     握られる手を、ゆるく握り返す。
    「肉ついてないし、性格悪いし、そもそも男だし、なんで松田さんがこんなことするのか、よくわかんなくて……世話焼いてくれるのも、そもそも住むとこなくなったのが原因だし転がり込んきた迷惑料だって言われたらそうなんだろうけど」
    「……手ぇ」
    「はい?」
     左右の手がそれぞれ重なっていたのを組み替えて、松田さんの右手が僕の左手に触れ、逆も同じようにする。親指と人差し指の関節が、僕の同じ指の水かきをつまむようにして、
    「いっ……だだだだだだだだ痛い痛い松田さんやめてそれなんのツボなのめちゃくちゃ痛いっ……!」
    「あんなぁ、いくら訳あって同居してるとはいえこんな面倒くさいガキ捕まえて性欲処理しようとかそこまで人間終わっとらんのやこっちは」
    「ごめんなさい撤回するからとりあえず手離してほんと無理……!!!!」
    「抱きたいと思っとるから誘われたら火もつくやろ。なんでなんも興味ない人間に衣食住世話焼いてあまつさえ手出してまうねん」
     きつくつねられていた手が解放され、とうとう涙目になっていた僕は痛みで話半分だった。
    「えと……つまり、したかったのは僕だけじゃなかったってことでいいの……?」
    「……お前な、ほんまそういうとこやぞ」
     あ、地雷。なんで墓穴掘っちゃうんだろ。
     まだ痛い手を気にするまま、松田さんに抱きすくめられるまま体重を預ける。
     この少しの時間で一体何があったというのか、色々理解が追いつかない。つまり、松田さんは僕を性的に見ていて、今までもそういうつもりでキスしてきてたってこと? なんだっけ、制欲処理じゃない、ならこれはなんだ?
    「松田さんさぁ……もしかして僕のこと」
    「お前こそ言うことあるんちゃうんか」
    「え?」
    「期待しとったってことやろ。やのになんで拒否っとん」
    「あ、拒否……ってわけじゃ。ただ、もしそう思ってるの僕だけだったら滑稽だなってだけで……」
    「そう思っとる? 何をや」
    「い、言わないよこの流れでっ……なんでムードとか空気読めないわけ、このノンデリ!」
    「うっさいわそっちから始めたやろ。まぁ、その反応だけで十分やな」
     後ろから伸ばされる手が、おもむろに膝頭を撫でて、ゆっくりと内腿に降りていく。普段なんでも雑なくせに、こういう手つきが優しいのは、やらしい。
    「なんで今日はズボン履いとるん」
    「言わないよこの流れで……っ」
    「へーへー」
     足の付け根をギリギリ掠めそうなところで、松田さんの指は離れていった。代わりに、僕の顎に触れて振り返るよう促してくる。
    「なんでするんか、何したいとか言うたほうがええんか?」
    「……さっきからセクハラが過ぎる、減点」
    「厳しいな」
     向き合って触れ合った唇は、お互いに少し乾燥していて、唾液で湿らせてもそれはすぐに蒸発してしまった。この後のことを考えると、一口でも水分をとっておきたいな。
    「松田さん、喉乾いた……」
    「お前……このタイミングで」
     呆れても松田さんはなんだかんだ優しい。ベッドから降りて飲み物を取りに行く背中を、僕は顔を熱くして見送った。
     あぁ、ガスマスクがあったら被りたい。

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