いつかのひに気が付けば日没が随分と早まっていた。夜になると、空気が少し冷たく感じる。先週はまだ夜でも汗ばむぐらいだったのに。そう言えば、先週の今頃は東北にいたのかという考えがぼんやりと頭をよぎる。現実味のない旅路だったが、あんなことが夢であってたまるかとも思う。正直、夢で見た方がどっと疲れる。疲れるが、全てが終わった後、不思議と清々しい気持ちになれた。
俺たちとは別で帰ると言った草太は、まだ姿を見せない。アパートの部屋は鍵がかかったまま、主の帰りを待っている。
一服でもするかとポケットに手を突っ込んだところで、煙草を持ち歩いていない事実を思い出す。あの日から少しずつ吸わなくなっていったのだった。下のコンビニで買うという選択肢もなくはないが、そこまでして吸いたいという気分でもない。
やがて、カツンカツンと階段を上がる足音が響く。何度も聞いたことのある音を、間違えるはずがなかった。
「……おかえり、草太」
いつか聞いてくれるか。そのいつかが来たぞという想いを言外に込めながら、俺は告げた。