イースターNRTキャラクター設定
プロデューサー
・秀との信頼度は100
・元の鋭心と百々人に戻って、もう一度C.FIRSTを結成したいと願っている
天峰秀
・童貞処女
・どれだけ理不尽なことがあっても、絶対に正気を失わない。高SAN
花園百々人
・最初から最後まで洗脳されている。低SAN
・既に子宮が壊れてしまい、新しい卵は作れない
・子を産めないのにそばに置いてくれる鋭心に感謝している
・ぴぃちゃんへの感情を鋭心とすり替えられている
・本物のPには初対面のような態度を取るが、鋭心が認めた相手だから親切
・秀は大切な後輩だと認識。飴役として懐柔してくる
眉見鋭心
・正体は怪異
・優秀な若い男に種付けして子供を増やしたい
・自らの半身に触手がいる
・ある程度百々人や秀やPには愛着があり、例え子を産めなくてもそばに置いておきたい
事務所のホワイトボードを前にして、互いの頬をつねり合った。
「痛いです、そんな本気でつねらなくても」
「ごめん。けどアンタだって、アイドルの顔つねるとかちょっと疲れてるよね」
ホワイトボードには15のユニット名と一人の個人名が書かれていた。16番目のユニットの名はない。Legendersの次に書かれていたのは、“天峰秀”の個人名だった。
「…あのさ、ドッキリ系の仕事受けてたりしない?」
「なんでプロデューサーの私まで巻き込まれているのですか。スケジュール的にも無理ですって」
なんてことのない土曜の朝早く、打ち合わせのため出社したプロデューサーと秀はありえない事態に直面していた。C.FIRSTに関わる資料がすべて消え、代わりに天峰秀がソロ活動している情報だけが手元にあったのだ。花園百々人や眉見鋭心の名前はどこを探しても見つからない。
「そうです、こういうときは相談しましょう」
陰陽師。胡散臭いが頼れる存在だ。不思議な現象に対して、一般的な人間より多少詳しいのではないかと電話をかける。
『おはようプロデューサー。珍しいな、個人用の番号にかけてくるなんて』
「おはようございます。少々個人的に助けていただきたいことがありまして。雨彦さんは、花園百々人と眉見鋭心、この名前に聞き覚えはありますか?」
『花園百々人、こいつは知らないな。眉見鋭心は……俳優の息子、くらいのことは知っている』
「そうですか……」
秀は話を聞きながら少し安堵する。少なくとも、鋭心は実在するようだ。思い立って、インターネットで花園百々人を検索すればすぐに出てきた。ある高校のサイトに、数々の入賞記録とともに生徒会長と紹介書きがある。そのページを見せると、プロデューサーは深く頷いた。
「では聞き方を変えますね。百々人さんと鋭心さん、二人に関する資料がすべてなくなってしまいました。まるで元からプロダクションにいなかったかのように。けど私と秀君は、二人のことを覚えています」
『すまない、それは陰陽……掃除屋ではどうしようもない事態だ。ただ事ではないな、俺も本家へ連絡してみよう』
ありがとうございます、といったん電話を切る。深いため息をつくと、秀が差し入れのエネルギードリンクを差し出してきた。
「これ飲んで元気出せって。行くんでしょ、先輩たちの家」
「行きます。状況が飲み込めたわけではありませんが手がかりがあるなら、なんとしてでも行かなくてはならないんです」
「俺も行く。こういうときは大人に任せるのが正解かもしれない。けどC.FIRSTのセンターは俺だから、俺が、先輩たちを呼びに行かなきゃ始まらないんだ。だから、一緒に行くよ」
二人はまだぬくいコートを着ると、ホワイトボードにメモを残す。
“百々人さんと鋭心さんの家まで行ってきます”
書いてから、二人で戸惑う。これで伝わるのだろうかと。しかし一秒も迷ってはいられない。書き直さず事務所を飛び出した。
事務所からは百々人の家が近い。電車に乗り、着くまでの時間で必死に部屋番号を思い出そうとしていた。
「流石に部屋番まで覚えてないです! 履歴書も個人データも全部消えてしまいましたし……」
「こっちも、LINKのデータがエラーになる。電話番号覚えてる?」
「すみません……電話帳頼りでしたから。あ、けど角部屋だったのは覚えています」
秀も、角部屋を頼りに記憶を掘り返す。
「確か建物の中間くらいの階で、部屋番号が素数だったはず」
「10階より上でしたね! で、15階よりは低かったと思います」
互いに素数の一覧を検索し、ああでもないこうでもないと考えているとひらめきはやってきた。
「末尾が3だったことを思い出しました! で、部屋番号に13は使われないので、“03”で確定かと」
「素数って条件だと、“1103”か“1303”か。どっちかは正解な気がするよ。……あ、最寄り駅ここだよ!」
乗車してくる客を押しのけるように降りる。周りの人間は迷惑そうな顔を向けてくるが、秀は迷わずプロデューサーの手を引いて早足で改札へ向かう。
「ところで秀さん、4桁の数字なのによく素数だと覚えていましたね」
「百々人先輩から教えてもらった。で、百々人先輩は、硲先生から教えてもらったらしい」
早足で歩くこと10分。マンションのエントランスへと辿り着く。結局二択だからまずは1103から試すこととした。番号を入れて呼出しを押してから、秀は慌ててプロデューサーを突き飛ばした。
「か、隠れてて。向こうはカメラでこっち見えるから」
秀が生徒会の後輩のふりをして聞き出そうとしたが、結局、百々人は外出中らしい。あまり深追いせず撤退することにした。
「けどこれではっきりしました。花園百々人さんは実在する。ただ、プロダクションに加入していない」
「百々人先輩、俺のこと忘れていたらどうしよう……」
途中のコンビニで軽く軽食にするが、味もわからず飲み込むことしかできなかった。しかしここで立ち止まったままでは何も変わらない。水で流し込むと、鋭心の自宅へ向かうべく駅へと引き返した。
静かな住宅街を歩くと、見覚えのある邸宅へ辿り着いた。表札にはしっかり眉見と書かれている。インターホンを前に、秀は深呼吸して気分を落ち着かせた。
「あのさ、アンタがプロデューサーで良かった。レッスンも、お仕事も、ライブも全部アツかった。だから今、もう一度3人で舞台に立つためにここまでやってきたんだ」
だから、
「一緒に、先輩たちをもう一度スカウトしよう、プロデューサー。先輩たちが俺とアンタのことを忘れていても、もう一度」
震える秀の手を咄嗟に掴む。
「私も!同じ気持ちです。きっとこのまま、あなたがソロユニットとして活動しても芽は出る。けど私の目指す先は今までと同じです。3人で1000点を取る、これはあなた一人ではできない。私は3人の、そして49の星が輝く世界を待っているんです。ずっとずっと、これだけは諦めません」
途中から涙声になってきたプロデューサーをからかう秀の声も、同じように震えていた。
「アンタさ、大人なんだから……泣くなよ……」
「っ……秀君こそ、鼻声ですよ……」
互いに鼻を啜ると、両手を重ね合わせた。
「重なった手で掴み取るんです、私たちの目指す未来を」
「勇気を分かち合おう、俺とアンタで」
二人でぎこちない笑みを交わして、プロデューサーはインターホンから少し離れた。秀が慎重にインターホンを押すと、しばらくして聞き慣れた予想外の声が返ってきた。
『アマミネくん?』
不測の事態に声が出ず固まっていると、玄関から百々人が出てきた。プロデューサーも思わず顔を出す。
「あれ? 知らない人だ……。けど、マユミくんがアマミネくんを呼んでる。そっちの知らない人も、一緒に来てもらった方がいいのかな?」
簡素なシャツとズボンを身に纏った百々人は、秀の記憶通りふわふわとした笑みを浮かべている。しかし、今まで“ぴぃちゃん”とよび懐いていた存在を前に、初対面のように振る舞ったのだ。
咄嗟に問い詰めようとした秀を制したのはプロデューサーだった。
「初めまして、百々人さん。私は315プロダクションのプロデューサーです。眉見鋭心さんにお話があって来ました」
「さいこうプロダクション……知らないなぁ。けどマユミくんのおともだちなんだよね。上がってよ」
促されるままに玄関に上がり、出されたスリッパに履き替えた。玄関もだが、どこにも明かりはついていなかった。秀は百々人から色々聞きたいことがあるが、プロデューサーが様子見を選んだことを察して黙ってついていく。
こっちだよ、と促されたのは下りの階段だ。コンクリート打ちっぱなしの床と天井と階段。何度か眉見家にやってきたことのある秀でもこの階段は初めて見た。いや、そもそもこんなところに階段なんてなかった。いつの間にか、百々人が一番後ろにいて逃げられない。プロデューサーと目配せをして、慎重に階段を降り進んだ。
降りた先には開けっぱなしの扉がある。扉を通ると、ガレージほどの広さの部屋には探していた人物が立っていた。
「……まさかお前も来るとはな、プロデューサー」
眉見鋭心は、そこに存在していた。