少女と番犬 番犬の声を初めて聞いたのは、私の手が大樹の葉より小さい頃だった。
当時の私は恐ろしいものなど何もない無謀と好奇心の塊で、番犬が仕事をするのはどういう時かを理解していなかった。危ないから家に閉じこもっているようにと言われた程度では好奇心が収まるはずもなく、両親が目を離した隙に家を抜け出して、その結果、蛮族と遭遇した。
当時の私はそれが蛮族だと分からず、ぼけっとしている間に蛮族は私に襲い掛かろうとし――そして、番犬に駆除された。
「怪我は無いか」
抑揚のない落ち着いた声が、番犬の口から聞こえた。集落の皆と比べてはるかに背が高く、木漏れ日を受けた真っ黒な髪は金属のようにきらきらと輝いていた。そして前髪の下、額に埋まる翡翠色の宝石と、私をじっと見つめる同色の瞳が何よりも印象に残った。
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