自制 一年近く経とうとも屈強な左腕が床を着いているのが、視界の右端に見える。
好き放題に伸びていたのが随分とましになって、お揃いの椿の匂いがする髪が、左頬を撫でる。
聴くだけで酔いそうなほど心地よい声が、すぐそこで鳴る。
「村田」
衿の合わせから手を入れられて、その気にさせられそうになるのを必死に抑えた。
何故なら。
「こんにちはー!義勇さーん!」
「村田さぁーん」
「来てやったぞ!半々羽織にションベン漏らし!」
竈門と我妻と嘴平が、門の前で待っているからだ。
「どけぇっ!」
冨岡の額を手のひらで押して、なんとか体を起き上がらせる。元柱相手にこんなことをして、もしかして強くなったのかなんて期待するけど、きっと冨岡はわざとされるがままなのだ。
涙を浮かべて眉を下げる顔に容赦しそうになるけど、流されてはいけない。
「痛い」
「悪かったよ!けど、あいつらが来てるんだからそういうのはやめろ!」
さっさと冨岡の下から退いて玄関に急ぐ。ついてくる冨岡は、流石にもう強引にする気はないようだ。
息をかけられた場所が熱い。体が火照って仕方がない。数週間ぶりにお互い休みが被ったのだから、焦るのも仕方ないと思うけど、後輩を無下にして欲を貪るほど落ちたら駄目だろう。
求めるならば、また夜に。