社会人炭善「お、おじゃまします……」
「うん、傘はその辺に置いてくれ」
駅から歩いて十分程、家と家の間に田んぼを挟んだ風景を見ながら辿り着いたのは、こじんまりとしたアパートだった。新卒四年目で地方に転勤になった炭治郎は、本社にいた頃より少しだけ階級が上がっているはずなのに、住むところには頓着しないらしい。鈍い音を立ててドアが閉まる。炭治郎の腕が頬の横を通り過ぎてスイッチを押した。少しだけ心臓が跳ねる。
「何もない部屋だけど……」
「いや、本当に何もねえな」
明るくなった部屋に見えるのは、まずキッチン。綺麗に整えられており、毎日使われている感じだ。居間にはソファがあり、テレビが置かれている。隣は多分寝室だろう、遮光カーテンが見えていた。
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