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    kameyamakameta

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    kameyamakameta

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    竜骨と小壺の話。

    豪布の滝壺実質的に基地の『王者』であった「豪布隊長」への大規模な反乱と襲撃。一昼過ぎて薄暮の中、無理な酒の飲み方をしたせいで痛む頭を軽く押さえつつ、豪布のバクダンの地区へ向かう。
    バクダンの養成所に屋移りするまで過ごした地区だ、隊長の遣い走りで表通りから裏路地まで、およそ通ったことが無い場所はない。
    見覚えしか無い場所の筈が昨昼の暴動で何がどこにあったかも分からないほどめちゃくちゃになり、瓦礫と散らばった資材と死体とを掻き分けるようにしてヘビ隊の機体のように曲がりくねる道が地区の入り口から豪布の居住していた屋敷まで続いているのでそれを辿る。
    自分の地区はここから真反対に構えたからかなりの距離があるというのに、怒号と爆発の地鳴りが自室の中まで響いていたのは風向きのためばかりではなかったらしい。
    それでもあの騒がしさにしてはその辺に転がっている肉塊は少ない。逃げ遅れたうすのろか、火事場泥棒を企んだ間抜けぐらいで抵抗するものなど居なかったのだろう。破壊の跡はあれど交戦した痕跡は皆無だ。
    暴動の規模から考えれば綺麗な方だ。壊れたものさえ片付ければ、すぐに新たな隊長がこの地区に収まるだろう。
    死んだように押し黙る、瓦礫の地区を見回してそう勘定する。
    少なくとも今、生きているものはこの地区に俺だけだろう。
    そう思ったが、懐かしささえある豪布の屋敷の前まで来たところでそれは勘違いだったと知る。
    春のぬるい風が砂埃と共に季節外れの雪片のようなものをひらひら舞い散らす中で、1匹のバクダンがその原因を見上げていた。

    「…お前が首謀者なんだな、小壺。」
    ただの事実確認としてそう問いかける。
    豪布のバクダンの服心の部下であり、…おそらくそれ以上の存在でもあった小壺。
    呼び掛けにつまらなそうに振り返り、俺を嘲る様な笑みを浮かべるのはドスコイ時代から変わっていない。
    が、それはこちらも同じであったらしい。
    「こんなときまでお前は、俺たちと違うって顔をしやがるんだな」
    そう言ってまた前に向き直る。
    互いがバクダンになってから言葉を交わしたのはこれが初めてだ。その前も一度しか話していないが。
    鉄骨の下敷きになりかけていたのがこの小壺だった。俺が代わりに下敷きになり、医局で入院している最中に訪ねてきた、その一度きり。
    医局のシャケが嬉しそうに「お見舞いの方が来られていますよ!」と通して来たが、その時の小壺はいつものバカにした様な笑いではなく、息苦しそうに暗い顔色で現れたのを覚えている。
    俺じゃなくてコイツに治療がいるのではないか?と思ったぐらいに。
    「…なぜ助けた?」
    そう聞かれたから「知るか。体が動いただけだ。」そう答えて会話は終わった。
    助けた礼を言われるとは露ほども思っていなかったが、バクダンの養成所への推薦枠を掠め取られたことへの恨み言ぐらいは言われると思っていた。だがそういったことはなく、ただ一言の問答をしただけだった。
    実際、俺の次の枠で推薦され養成所に入ったのだから、小壺にとって少しバクダンになるのが遅れることぐらいどうでも良かったのかもしれない。多少の無理は豪布隊長が通せる。本来同隊長が推薦する候補生が2回連続で通ることはないから、『無理を通した』わけだ。
    ….それだけ目をかけられていた小壺が起こした暴動。先読みの才が突出していた豪布隊長にも予想が出来なかったのだろう。
    もはや『暴君』は居ない。基地本部は大喜びだろう。あとは片付けさえすれば良い。
    「あのとき。」
    「あ?」
    小壺が前を向いたまま話す。
    「お前が助けなければ。」
    「今になって恨み言か。結局一年しか変わらなかっただろう。」
    俺が言うことを聞いているのかいないのか分からない呟くような声音で続ける。
    「…あの一瞬で、ぜんぶ分かった。ぜんぶ分かったから、あのまま。」
    還りたかった。
    「もう俺はここまで、一本道しかなかった。…憐れだと思うか?馬鹿げていると。」
    「…どうとも思わん。俺は俺の戦争にしか興味がない。」
    「は、はは、そうだ、そうだったな。…くそったれが。」
    「お前も俺も糞は垂れる。同じだ。」
    「なら、俺とお前で何が違った?」
    「さあな。」
    強いて言うなら、俺はこっち側だ。
    そう言って首だけになって吊るされ、風に揺られては細い鱗を振り撒く置物になったかつての隊長を顎で示す。
    すると、小壺は。この後、暴動の首謀者として処分されるそのシャケは、こちらを振り向かないまま、カラカラと、心底楽しそうに笑って叫ぶように言った。
    「お前には絶対に無理だよ!!」
    そう言って笑う声が誰もいない豪奢な屋敷の壁に反響する地区を、振り返らずに後にした。
    すっかりと夜が更け、舞う鱗片はもう闇に紛れて見えなかった。
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