楽隊を目指したシャケの話コレはとあるシャケの話。
楽隊を目指したシャケの話。
そのシャケは、コジャケの頃からとても歌が上手かった。
だから、当たり前のように「自分は楽隊に入るのだ」と思っていた。
楽隊を組もうというシャケこそいなかったものの、同じく楽隊を目指す周りの皆も自分の歌を褒めてくれた。
何度も楽隊の試験を受けた。
何度も試験に落ちた。
今度こそと受けた10度目の試験で、
「歌なんて誰でも歌える。そんなものでは狼煙にならない。…誰も教えてくれなかったのか?」
憐れむ目で、そう言われた。
誰もそんなことは言わなかった。
確かに歌で狼煙を上げるものなど前例はない。
やはり何か楽器ができた方がいいのではと悩んだこともあった。
それでも同胞は「お前がそれになったら、第一号だな」
と励ましてくれた。
…そう思っていた。
楽器を鰭に馴染ませるには、年月がいる。小さな頃から初めているのが1番良い。
既に10年。もはや、楽器は握れない。
今回の試験が最後のチャンスだった。
見込みがないなら、楽隊志願者のバラックから出て行くより他が無い。
同胞を恨むことなどは無い。皆で少ない席を奪い合うのだ。
できることはして当然だった。
この声に、この歌に、意味などなかった。
それだけだった。
もう何も見たく無い。話したくも無い。
コレは楽隊になりたかったシャケの話。
とあるコウモリとなるシャケの話。