心地良い御八つ山岡百介という人は、食事の際の所作が実に美しい。
商売には向いていない性分だと己に見切りをつけるまでは、生駒屋を継ぐために商家としてのいろはを叩き込まれていたのだと聞いた。
会食の機会も多いのであろうし、そういった作法は特に厳しく躾けられたのだろう。
どのような食事であっても、百介は綺麗に食す。
背筋は伸び、箸を扱う指は淀みなく動き、余計な音は立てず辺りは汚さず、無駄なく食物を胃の腑に収めていく。
そのような百介の様子を見るたびに、又市は感心すると共に居心地の悪さを感じていた。
仕草の一つ一つから、己とは生まれも育ちも違うのだという事実を突きつけられているように思えてしまう。
とは言え、又市だとて食事の作法はきちんと弁えているし、誰に見せても文句は言われないだろう所作で喰える自信はある。
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