イヴ――ひどくつめたい、緞帳の内側。積悪を纏って。テンションを高く張る糸は、既に擦り切れる寸前。
その糸を引き裂いたのは、彼女の手だった。
ああ、母さん。どうしたの? こんな所まで。だからそんな冷たい顔、しないでよ。俺、嬉しいんだよ? 母さんに会えて、すごく嬉しいんだよ。
本当だよ! ねえほら――母さん、笑ってよ。俺は、その顔をずっと待ってたんだよ。ずっと――
「……泣いているのか」
「――え?」
カイナンのその言葉が、俺に向けられたものだというのはすぐに分かった。けれど一瞬、何に対しての言葉か分からなかったから、聞き返してしまう――泣いていた、って? 俺は今、泣いていたのだろうか。頬に手をやると確かに指先が僅かに濡れている気がする。
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