α=0「言っといてなんだけど、セルフカラーは結構髪傷むよ?店行かなくていい?」
「大丈夫です。紫さんもお店で染めるならそうしますけど」
口にしてくれるようになった我がままが少し嬉しい。遠慮なんて関係なくそのうち言い負かされてばかりになりそうだな、なんて思いながら裏路地に背を向ける。レストラン街とは逆に角を折れてホームセンターのある通りに入れば、ずいぶん久しぶりに思える背格好が目に入って無意識に歩調を緩めた。
黒髪は何だか見慣れない。隣の子は見たことある、確かあの日一緒にいた子だ。
力の抜けた姿勢でも両足はしっかり地面についていて、それから少し表情がだらしない。
……そっか、と何かが胸の中にはまった。初めからその形だったように、それはもうすとんと。
「紫さん?」
前から声が聞こえてはっとする。大切な妹が不思議そうにこちらを見ていた。
ごめんなんて生返事をしながらもう一度彼の方を見れば、見慣れた色の視線がかちりと交差した。
その目が安心したように細められたものだから、軽く片手をあげてやる。
そうだ。あたしらはこんなもんで充分だ。
「お知り合いですか?」
「いや、別に」
「……そうですか」
「大したことないんだって。でもそうだね、うーん」
言葉を切って、すぐにさらりと繋げる。
「まえ会った気がしたってだけだよ」
風が柔く渦を巻いていた。
6+α日目