『職員さん』のはなし──ねえ、『職員さん』って知ってる？

ピンポーン
ピンポーン
薄暗い部屋にチャイムの音が響く。男は怯えたように肩を跳ねさせた。

──困ってる子供のところに来てくれてね

こんにちは、■■■■■職員です。
ドアに背を預けているはずなのにわかる。覗き穴ごし、暗紫の目がこちらに注がれている。

──ぜったい助けてくれるんだって！

手をかけてもいない鍵穴が回り、抵抗もむなしくドアが開く。

──相談しに来る人には優しくて、でもわるい人には厳しいから

こちらで虐待を受けている子供がいるとの報告がありまして。
……はい、はい。いえ、いいんです。

──迷冥市では、子供に優しくしないといけないんだって。

あの子が非道いことをされていないんだったら。


カン、カンと階段を下りていく音がする。
感情の見受けられない顔、親を冷静に品定めするような目。
波立たない心のわりに、袖を通す服には海が描かれている。

職員さん『浪形御代』は、そんな怪異だった。