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    oki

    @okiuni014

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    oki

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    たにしちゃんちの将門さんは苦労が絶えない!#⃣8(テキスト)

    たにしちゃんがクリユニやめようかなんて言うから…。

    ##テキスト
    ##平将門
    ##PL王
    ##たに将

    ――知ってる。
    彼がどこにいるか。――

    昨晩降り続いた雨も上がり、今朝は天気がいい。
    朝日が差し込む廊下は明るく、窓の桟に付いた水滴が光を反射してきらきらと輝いていた。

    城の端に位置するこの場所は大広間付近とは違い静かだ。
    私がここへ向かう時はルルもナナも付いてこない。
    外から微かに兵士たちの声がする。
    窓から声のする方へ視線を向けながら、廊下を進む。

    遠くに兵士たちと一緒に走っているレオニダスが見える。相変わらずだ。

    廊下の突き当りに位置する扉の前で立ち止まると、そっとドアノブに手をかけた。

    ――知ってる。
    この扉を開けたら彼がどんな顔をするか。――

    ノブを回し、少しだけ力を入れて扉を押すと、ギっと鈍い音を立てて木製の扉が開いた。
    古ぼけたインクと紙のにおいを含んだ独特な空気が顔にかかる。
    手元を見ていた顔を上げると、本棚に囲まれ、脚立に腰を掛けている人影が見える。
    人物に焦点を合わせると、彼と目があった。
    私の姿を認めて、彼は切れ長の目をさらに細めて微笑む。

    ――知ってる。
    口を開いた彼がなんて言うか。――

    「あぁ。おはよう。ずいぶんと早いね。」
    やさしい落ち着いた声が、静かな廊下で遠くに行っていた私の意識を呼び戻してくれる。
    大好きな声だ。

    読みかけの本に栞を挟み、脚立を降りてくる。
    大好きな姿だ。
    「将門さん。おはよう!」
    飛びつきたくなる気持ちを抑えて彼の元へ近づくと本のタイトルを覗き見た。
    歴史…の本かな?タイトルすら朝の頭には入ってこない。

    ――知ってる。
    彼がこの後どうするか。――

    「今朝は少し冷える。これを羽織っておくといい。」
    彼自身の外套をはずし、私の肩にかけてくれる。
    ふわと彼のにおいがした。
    大好きな大好きな彼の…


    ほんの少しだけ、ほんの一瞬だけ私の表情に陰りがさしたのを彼は見逃さなかった。

    「どうしたんだい?僕の王。」

    大好きな声、大好きな姿、大好きなにおい。
    私の姿を認めて細まる目、私を心配してハの字になる眉。
    ここでこの手を伸ばして、私とほとんど背丈の変わらない、その目の前にある首に腕を回せたなら。
    こんなにこんなに距離は近いのに、つま先は触れそうな程近いのに。
    叶わない。これ以上近づくことが。触れることが。世界がそれを許さない。
    代り映えのしない日々。繰り返される毎日。
    ずっとずっとずっと我慢している。毎日毎日毎日毎日この30センチに。

    将門が何かを察したように姿勢を正す。

    「毎朝君がここへ来てくれることが嬉しい。」

    静かに放たれた言葉にはっとする。
    本を抱え、静かにこちらを見据えた将門は言葉を続ける。

    「毎朝君がおはようと言ってくれることが嬉しい。

    毎朝君がほんの少しだけ僕の読む本に興味を持ち、分からないと言いたげな顔でこちらを見ることがとても

    愛おしいと感じている。」

    最後の言葉を解釈するのに時間を要した。…なんて?
    私の思っていることなどきっとお見通しなのだろう。
    ふっと困ったような表情を見せ、またこちらを見つめなおすと
    ゆっくりと口を開いた。

    「僕たちは限られた時間の中で生きている。繰り返される毎日にもう新しい話は紡がれないかもしれないね。

    けれど、僕たちの生きる世界で代り映えがしないことはとても尊いことだよ。

    それでも、君が世界の終わりを望むなら、僕は闇に染まってでも君の望みを全うしようじゃないか。」

    ぐしゃぐしゃだった心が彼の言葉に合わせるように解けていく。
    一刻、感情を忘れたかのようにただ彼の目を見ていた。


    頬に何かが触れる感触に意識が体に戻ってくる。
    あたたかい。彼の素手だ。
    けど、さっきまで彼を捉えていた目の焦点が合わない。

    目の前に彼がいるのは確かなのに。
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