1号と雪と浮輪 ルイン達と釣りに行くことになった。
出発前に、今回はパーティーに参加しない雪から、アイテムをもらった。
「1号、餞別だ、持ってけ」
「これは……浮輪?」
「誰かさんがよく突っ走って溺れて、嫌な顔してるだろ」
話を聞きながら、受け取った軽くて大きなドーナツ型を見る。
白地に小さなピンクの水玉、その上に赤い苺がちりばめられた柄だった。
「……可愛いな」
「うるせー! それしか手に入らなかったんだ。文句があるなら、どっかで救命胴衣の作り方でも覚えて来やがれ!」
「ありがとう……これで湖の多いダンジョンへ行っても安心だな。食料や素材の魚をいっぱいとってくる」
「フン……」
「行ってくる」
◇
◇
ある程度の釣果を上げて、仲間の元に帰ってきた。
あらためて雪に礼を言おうと探したら、隅の方にいて、更にそっぽを向いていた。
声を掛けるとバツの悪そうな顔を見せる。
「ただいま、雪……お陰で溺れずに済ん……」
言い切る前に遮られる。
「頭に藻だの落ち葉だの絡みまくってんだよ! 分かってんだ! 沈んで溺れたんだろ!」
「うん……」
確かに、濡れて乾いた髪が、色々絡まってごわごわしたままだ。洗ってから戻れば良かったか。
いや、今の雪の様子だと、オレが帰る前に気付いていたんだろう。
「浮輪がもう少し大きければ、オレの体重でも大丈夫だったかも知れないな」
「……もういい……その辺にしといてくれ」
雪にしては単純なミスをしたことが恥ずかしいらしい。オレなんか、いざ溺れてしまうまで気付きもしなかったが。比重が人並みじゃないから、しかたないか。
「でも、湖に落ちた時のショックが減っていたんだ。なんだかお守りみたいで、ずっと着けてた」
「あー……、そーかよ。じゃあ、今度は浮輪抱えて風呂にでも入ればいいさ」
舌打ちひとつして、雪はその場を離れようとした。
慌てて声を掛け、伝えたかったことを伝えた。
「雪……ありがとう!」
雪は何故か足を止めて、中途半端に振り返る。
「……割れなかったんだな」
ダンジョンでは、回数は少ないが戦闘もあった。浮輪を身につけたままで……
「死守した」
今度は何も言わずに、雪は背を向けた。