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    泡沫 珊瑚

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    泡沫 珊瑚

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    「森が謡うメメント・モリ」のアンサー的なものとなっております。
    読む際は先にそちらの文章を読むことを推奨します。

    ただ一人の名のメメント・モリ今日も朝が廻る。
    起きてぼんやりとした頭のままで、ゆっくりとベッドの中から抜け出し座り込む。
    里を出る前日…師であるオリエ様の葬儀を思い出していた。
    諍いにて自分を守るために庇って、斃れてしまったその人は亡くなる前に後悔の言葉を言っていたことも。
    …その言葉の事もあれば、自らは守護者になれはしないだろうと悟って、里から消したけど。
    どちらにせよ、この里に居るべきではないと思ったからだ。
    でも里を出る当初は一人で出るのはとても、さみしい。
    一人でどう生きればいいのだろう、どうすればいいのだろう、と考えたときに師が俺に話していたことを思い出していた。
    師は、本当は外の世界を見たかったことを。知らない物を、人を、文化を、知りたかったことを。
    里は閉鎖的な環境下にあった為に、外との交流を隔てていたからだ。だからこそ、師は知りたがっていた。


    「生まれたところがこの森だったからなぁ、外へ行くにも出来ないだろうね、守護者だし」
    「でも、どこの世界も、きっと、どこか、うつくしいんだろう」
    にっこりと笑って、師はそう言っていたのを思い出した。なんだそれ、と当時思っていた上に口に出していたから、師にわしゃわしゃ頭を撫でてきた日の事を。
    命が火が消える間際にも
    「知らない世界を、一度でもいい、見てみたかったな」
    と、その言葉を残して逝った事も。
    ならば、不甲斐ない弟子が貴方の願いを、最後まで果たそうと思う。
    「外の世界を沢山見てきます、もし海に還り会うことを許してくれたなら…思い出話として、持ってきます」
    最後に言いたいことを、その亡骸に込めた。意思が伝わったのかは知ることもできないのだけれども。

    それでも、伝えたかった事だった。
    死人に応える口が無くても、伝わる耳が無くても、伝えたかった。



    部屋の窓を開けて、外の景色を見る。
    太陽が昇る前特有の青とピンクの空がゆっくりと色を変え、オレンジの煌々と輝く太陽が顔を出していく。
    とても眩しい光を受けて、俺はそっと目を閉じる。

    「オリエ様、外の世界はとても、うつくしいですよ」

    外のこの景色も、どの場所も、どこもかしこも綺麗だった。
    何も、景色だけ…というわけでもない。
    懸命に生きようと、命を燃やすものも、知識を糧にしようとする人も、抗う人々も力強くたくましい。
    だからこそ、綺麗だ、綺麗なんだと。


    師の願いでもある外の世界を余すことなく見ていく。
    焼き付けて自らも海に還るその日に備えて、思い出話を幾つか用意しておこうと。
    本当に世界は、うつくしかったと胸を張って言う為に。

    照りつく熱砂、荒々しき海、清らかな森。

    厳かな銀の都、空中に眠っていた古代文明。

    故郷を取り返そうと奮戦した岩の砦、和文化を栄える東方の国、異なる部族が集う草原。

    最前線で人々を守った水晶の街、海底深くに現れた忘れなき都。

    知識が集結した白き街、竜が人を想い統治する色彩の都、想起された遥かなる宇宙。

    全部、目に焼き付けて忘れないようにする。
    これが、自らの魂を送る際の贈り物になれば、良いのだけれど。
    喜ぶだろうか、どんな反応するだろうか。
    それだけでも、心が躍る。

    物思いに耽りつつ外を眺めていると、ドアのノックする音と共に、仲間の声が聞こえる。

    「ソラス君、これからお仕事の時間だって、ドロシーが文句言いながら待ってるよ」

    「今から行く、待ってて」

    俺は、今日を始める。
    青い薔薇を象った大鎌を背負い、朝焼けを照らす部屋から後にした。

    今度はどこへ行こう。と楽しみにしながら。



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