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    POIPOI 24

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    過去に書いた小説(https://poipiku.com/1280732/4376280.html) と若干繋がってますが、知らなくても読めます。
    テ□後、実家に帰省するもあんまり仲良くなれないライルとニールの話です。(14〜15歳くらいのイメージ)

    =======================一度、帰省の際に兄の好物のケーキを買って帰ったことがある。
    都市部にしか出店していないパティスリーのチョコレートケーキで
    たまに仕事で遠出した父がお土産に買って来てくれていたものだ。

    寄宿舎から実家へは、列車でおよそ3時間。途中都心部の大きな駅で降り、地元の路線に乗り換える必要がある。
    乗り換えのため人で賑わうホームを歩いていると、見慣れた看板が目に入り足を止めた。

    簡易的な店舗のショーウィンドウには、大小様々なケーキが並べられていた。
    父は毎回違った種類のケーキを買ってきてくれていたが、その中でもニールはチョコレートケーキが好きだった。
    艶やかなチョコレートが表面をコーティングしており、アクセントのように白いムースが盛り付けられている大きなホールケーキ。
    ムースが乗っている部分を妹へ切り分けていた母の姿を思い出した。
    表面にはベリーも散りばめられており、兄はよく自分のケーキに乗ったベリーを妹に分けてやっていた。自分だって好きなくせに。
    ホールで買っても2人では食べきれないので、2切れを僅かな小遣いから支払った。
    ニールには教えていなかったが、寄宿舎ではささやかではあるが給与が発生するボランティアを募集しており、
    運よく参加できたライルは、毎月少額の賃金をもらっていた。

    地元に着く頃には既に正午を廻っており、見慣れた暗い空が過去に感じていた閉塞感を思い出させた。
    以前よりも少し荒れた印象の庭を通り抜け、玄関のベルを鳴らす。
    暫く経っても人の動く気配はなく、続け様に2、3度鳴らした。

    漸くトタトタと階段を駆け降りる足音が聞こえて、ドアの向こうから同じ顔がのぞいた。
    「ライル、おかえり」
    幾分頬の丸みが減ったような気がする。
    少しやつれた印象の兄は、自分の姿を見るなりぎこちなく口元を歪ませた。笑っているつもりなのだろう。
    「ただいま」
    なるべく視線を合わせないようにしながら玄関をくぐる。
    玄関横に立てかけられた鏡には、苦々しい表情をした自身の姿が写っており
    兄のぎこちない笑みの理由が分かって内心舌打ちをした。
    こんなつもりではないのに。
    苛立ちをなるべく表に出さないようにしながら、着替えるために自室へ向かった。

    家は自分が以前訪れた時よりも、人の気配が薄くなったように感じた。
    少し埃のかぶった自身のベッドに腰かけ部屋を見渡す。
    ニールと共有しているこの部屋は、家で一番大きな寝室であった。
    両脇の壁に沿うようにしてベッドが配置されており、ベッドの近くにはそれぞれの机と本棚が配置され各々の私物が並んでいた。
    といっても、寄宿舎に行く際に殆ど私物を一緒に持って行ってしまったライルの机には幼い頃に使っていたノートや文房具が僅かに残っている程度であった。
    また、ニールのベッド周辺も殆ど物が無く、必要最低限の物しか置いていなかった。
    両親と妹の遺品整理をした際に、自分たちの私物も随分と処分しまったことを今更ながらに後悔する。
    暮らしていた頃よりも身体は幾分成長した筈なのに、部屋は酷く大きく感じられた。

    リビングへ戻ると、ニールはキッチンで冷蔵庫を覗いていた。
    出会い頭には気づかなかったが、ニールはシャワーを浴びたばかりだったようで栗色の毛先がしっとりと濡れていた。
    どこか気怠げな様子に腹の底がむずむずした。
    「てっきり明日帰ってくると思ったから、何も用意できていないんだ」
    冷蔵庫を閉じながら、申し訳なさそうにニールは謝った。
    「ちょっと、買い物行ってくるから待てるか?」
    「別に適当で良いよ」
    「何も無いんだって。デリでも買ってくるから」
    言い聞かせるような兄の態度に少し苛つくも、深呼吸をする。
    今日は喧嘩をしに来たわけではないのだ。
    玄関に置いていたケーキの箱を差し出す。

    「これ、買ってきた」
    見慣れた箱に気づき、ニールは嬉しそうに表情を綻ばせた。
    昔の兄の雰囲気に近いものを感じて、少し心が軽くなる。
    「ありがとう、夕食の後に食べようか。」

    ケーキの箱を冷蔵庫に入れた後、直ぐに戻るから、と言ってパタパタと慌ただしく出ていくニールを玄関先で見送った。
    ニールが戻るまで一眠りしようかと階段へ向かう途中、キッチンのテーブルにニールの財布が置いてあることに気づいた。
    今日の兄はどうもぼんやりとしていていたが、財布も持たずに買い物に出てしまったようだ。
    財布を手に取り、ライルは仕方なく後を追うことにした。
    着てきたコートは2階に置いたままだったので、玄関先にかかっている兄の上着を拝借し外に出た。

    頬を刺す風の冷たさに首をすくめながら、早歩きでスーパーへ向かう。
    手袋を忘れてしまったので、ジャケットのポケットに手を突っ込むと中に小さな紙切れが入っていることに気づいた。
    なんとなしに取り出してみると、紙片はレシートで、裏面には電話番号のような数字の羅列が走り書きされていた。
    レシートの購入履歴には酒やタバコが記載されていた。
    学校の先輩にこっそり酒を買ってもらったりしたのだろうか?
    寄宿舎でも、先輩や年上の兄弟経由でタバコや酒をこっそり持ち込んでいる同級生がいたので珍しいことではないが、ニールがそういった嗜好品に手を出す印象は無かったので、少し意外だった。
    なんだか見てはいけないものを見てしまったような気分になり、慌ててレシートをポケットへ戻した。

    自宅からスーパーへは徒歩で15分ほどかかるが、裏道を使えばもう少し早く辿り着くことができる。
    大通りから外れた狭い小道に入り、割れた石畳を進んでいく。
    小道はあまり日が入らず、夕方でも既に暗く感じられた。
    途中、古びた書店の前を通ると見知らぬ男がこちらをじっと見ていることに気づいた。
    気味が悪いなとなるべく目を合わせないで通り過ぎようとすると、徐に男が近づいてきた。
    「今朝はありがとうね、また頼むよ」
    男は口元にいやらしい笑みを浮かべると、顔を近づけ耳元でそっと囁いた。
    男のタバコ臭い荒い息が頬にかかり、慌てて距離を取った。
    咄嗟の出来事に驚いて男を睨みつけるが、相手はこちらをニヤニヤと見つめるだけだった。
    いくら近道だからって、こんな道通るべきでは無かった。
    男がまた何か言葉を発する前に、ライルは急いでその場を離れた。

    スーパーに着くと、案の定レジであたふたとしている兄の姿が見えた
    駆け足で歩み寄り、持ってきた財布からモニターに表示された金額を支払う。
    ニールは一瞬驚いたような顔をしたが、自分だと分かると安心したように微笑んだ。

    明らかに2人分以上ある食材を袋に詰め、並んで自宅へ戻る道を進む。
    「悪かったな」
    ニールがこちらの機嫌を伺うよう覗き込んできたので、思わず視線を反らす。
    「抜けすぎだろ。俺が来なかったらどうしてたんだよ」
    「いやぁ、どうなってたんだろうな」
    あはは、と気の抜けた返事を聞いて一気に脱力する。
    先程変質者に絡まれたのもあり、随分と体が硬っていたことに気づいた。

    「そういえばさっき、知らないおっさんに話しかけられた」
    何気なくそう言うとニールの表情が強張るのを感じた。
    「裏道通ったんだけど、こっちのことジロジロ見てきてさ。この辺りも随分物騒になってきたから兄さんも気をつけろよな。そんなボケっとしてたら直ぐ、騙されるぞ」

    どこか抜けている兄に、小言も込めて忠告したつもりだったが
    ニールの顔がどんどん青ざめていくのが分かった。
    「どうしたんだよ?」
    「どんな男だったんだ…?」
    「え、小太りで背が低くて…帽子かぶってたから服はあんまり覚えてないけど…」
    「何か言われたり、されたりしなかったか?」
    ニールはいつの間にか立ち止まっており、不安気にこちらを見つめていた。
    「…別に。近寄ってきてなんか話してたけど、気持ち悪かったから直ぐ逃げてきた。」
    「本当に?」
    「本当だってば」
    「そうか…よかった。ごめんな…」
    「なんで兄さんが謝るんだよ」
    「あ、いや、俺が財布忘れたからそんな思いさせちまったし」
    すまなそうに視線を逸らす兄を見ると、
    男に言われたことや、ポケットの中の番号についてはなぜか触れることが出来なかった。

    重苦しい空気のまま自宅に戻ると
    ニールはそそくさとキッチンに向かい、食事の用意を始めた。
    拝借したジャケットを玄関のハンガーにかける際に、ライルはポケットの中のレシートを取り出し握り潰した。
    くしゃくしゃに丸まった紙をゴミ箱に捨てて、荷物を整理するために自室へと向かった。

    食卓に並んだ料理は、自身の好物で溢れていた。
    殆どはスーパーで買ったものを皿によそったようだったが
    大きなスープ皿に入ったアイリッシュシチューだけは、母のレシピのものだった。
    不味かったら残しても大丈夫だから、と一言添えて兄が皿によそっていたが
    確かに味付けはどこか塩っ辛く、野菜の大きさも不揃いだった。
    シチュー以外の惣菜は、母がいつも買うのを渋っていたような高価なものが多く、少し不安を覚えるくらいだった。
    「こんなに買わなくたって良かったのに」
    「せっかく帰ってきたんだから、このくらい良いだろ。俺が作れたら良かったけど、それは無理だし…。気にせず沢山食べろよ」
    先ほどは財布を忘れて焦っていたくせに、相変わらず保護者ヅラを続ける兄に自然と苛立ちがつのる。
    帰り道での出来事といい明らかに何か様子がおかしいのに、そんなこと無かったかのように取り繕う態度にこれ以上自分が立ち入ることを許さない意思を感じた。
    先に兄を遠ざけていたのは自分の筈なのに、いざこうして見えない壁を作られるとどうしていいか分からず、自分にもニールに対しても無性に腹が立った。

    こちらの反応を伺うような兄の視線を痛いほど感じて、皿に集中し黙々と食事を進めた。
    最初は学校のことや、寮での生活についてニールからぽつりぽつりと質問をされていたが言葉少なに返事をしていたらいつの間にか会話は途切れていた。

    ケーキは手をつけず、冷蔵庫に入れたままだった



    帰りの日、兄は珍しく自分を見送りに駅のホームまで入ってきた。
    いつもは改札前で別れていたのに、荷物が重いだろうから、と理由をつけてわざわざ着いてきた。
    普段なら売店を物色したりと出発ギリギリまでホームを散策するのだが兄と一緒にいることが気まずくて、さっさと列車へ向かった。
    乗車口までたどり着き、改めて兄に向き合う。
    ニールは口をキュッと結んだまま、何か訴えるような視線を自分に向けていた。
    「兄さん」
    何か言わねば、と思い呼びかけるとニールは苦しそうに眉を寄せ、そしていつものぎこちない笑みを浮かべた。
    「勉強、頑張って。体調にも気をつけろよ」
    いつもの癖で腕を広げようとしてから戸惑うように動きを止めた兄がなんだか可哀想で、片腕を伸ばし軽く抱擁を交わす。
    癖の強い栗毛に頬をよせるとニールの肩がヒクリと揺れた。

    あの時兄は泣きそうだったのではないかと気付いたのは、列車が故郷の駅を発った後であった。
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