人生山なく谷なく部屋があり 「瀬室さん、聞いてくださいよぉ」
瀬室利達(せむろ としたつ)はパソコンから目を上げる。後輩は自分の席からキャスター付きの椅子を転がしてきて、瀬室の机に二本分のコーヒーの缶を置き、すっかり話し込む体勢だ。
「部長が新部署の立ち上げに行ってくれないかって言うんですよぉ、新部署の部長誰だと思います?島田さんですよ島田さん!あの島田さん!俺絶対殺されちゃいますってぇ」
瀬室は笑う。笑うと切れ長の細い目がさらに細まって、絵に描いた狐のようになる。
「殺されはしないと思うけどな。まあ島田さんってほんと難しいからな……」
「難しいどころじゃないですって!瀬室さん島田さんと仲良いじゃないですか、アドバイスくださいよ」
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