「クリック君」
「…………はい」
表情こそいつもと変わらないものの、少しだけ困惑した声色でテメノスさんが口を開いた。
「この状況は一体どういうことでしょうか?」
「いや、今それを言いますか?」
彼の言うこの状況とは。
僕がテメノスさんを今まさにベッドに押し倒している状態で。
なんでこんな事をしてるのかというと、だ。
いつも僕を仔羊……いや、子供扱いするテメノスさんに、僕だって男らしい一面もあるということを見せてやろうという至極単純な理由からだ。
……それに、たまにはテメノスさんのあの穏やかな笑顔を崩して、羞恥に染まった表情も見てみたい。
(ちなみに、町の女性達やシスター達が話していた『壁ドン』というのも考えてみたが、自分の部屋で予行練習をしたら壁を壊してオルトに朝まで説教された)
……そのハズだったのに。
僕はテメノスさんを押し倒してから肝心なことに気づいた。
(…………このあと、どうすればいいんだ?)
結果、僕はテメノスさんに覆いかぶさったまま。
テメノスさんは私とベッドに挟まれて身動き出来ないままという図が出来上がった。
「……クリック君」
テメノスさんの戸惑った声が聞こえる。
……うん、これはもう間違いなく作戦失敗だ。
ていうか、いつまでもこのままだと確実に変に思われる。
ああもう、テメノスさんもどうしたらいいかわからないって顔してるよ、なんかすみません。
「あの……すみませんでした、テメノスさん。今のことは忘れてください」
そう言って離れようとした時。
いきなりテメノスさんが僕の首に腕をまわしてきて。
……………え?
今、
テメノスさんに、
キス、され……て。
目を閉じ白黒させている僕に構うことなく、テメノスさんの舌が僕の咥内を蹂躙する。
しばらくお互いの舌が絡み合う水音が僕の部屋に響き、やがて名残惜しそうにテメノスさんの唇が離れていった。
「な、なな、テメ、ノ」
「クリック君がいつまでたっても何もしてくれないから、私からしちゃいました」
意気地無しですねぇ、と揶揄うように囁くテメノスさん。
「さ、このあとどうします?今すぐ私の上から退きますか?それとも……続き、しますか?」
…………あぁ、やっぱりまだまだこの人には敵わない。
心の中で白旗を上げながら、テメノスさんの首筋にゆっくりと顔を埋めた。
END