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    yosieeeeeeeeee

    @yosieeeeeeeeee

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    yosieeeeeeeeee

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    一回は書いておきたいよね。👒と🐉の例のやつ
    ※児童誘拐とそれにまつわる人倫にもとる犯罪の話が少しあります

    無題掌にはっきりと感じるとがった骨。三角を上向いたそれは、短い息と共にもがくように上下している。助けてくれ、と男はずいぶんと歯が無くなった口で懇願した。リュウは指に力を込め、言葉にせず黙れと命令する。ごりりと男の喉骨が軋んだ。不潔な倉庫の中は男の吐瀉物と、さきまで押し込められていた子供達の汗と脂の臭いが混ざり合い、つんと饐えている。錆びた鉄扉の隙間から差し込んだ光が、血と鼻水に汚れた男の首をしらじらと二つに割っていた。
    この男がしてきたことをリュウは知っている。まだ幼い子供を攫い買い叩いては、欲望のままに振る舞う大人に売りつけてきた。何十人も、何百人も。売れない子供は時に家畜の餌にされた。さらには餌になる過程をを見世物にすらしていた。外道という言葉では足りない。「助けてくれ」男は細く繰り返す。逃れようと武器に手を伸ばす男の腕に、立てていた膝を落とした。枯れ木を割る音とぶくぶくと泡立つ悲鳴が倉庫の中でわんわんと響いた。
    どこにどの程度の力をこめれば人は死ぬのか。リュウは精緻に知っている。ほんの少し捻るだけ、ほんの少し圧をかけるだけ。研ぎ澄まし鍛え上げた技を持つ彼は、それを容易く行える。
    しかし知るは易くとも、使うは易くはない。力を持っていても。どれほど相手が非道を行なった者と知っていても。命を奪うということを、リュウは今まで最後の一線に据えていた。眼下に横たわる男の向きのおかしい腕、ぜぇぜぇと喘ぐ息、啜り泣く声、血が詰まった鼻から漏れるゴボゴボと濁った音。
    喉がひどく渇いて、ひとつ唾を飲み込む。それからゆっくり親指に力を込めた。
    「覚悟を持て」深い声が頭に響く。師から何度もリュウにかけられた言葉。諦めを、罪を、業を受け入れること。師の言う覚悟の意味が今になってはっきりとわかる。
    喉を掴む手に気を込める。苦痛を訴え、命乞いをする声は、骨が砕ける音と皮膚が絞られる音にかきけされた。思い切り握り込むと、男の首と胴は勢いよく離れて転がった。継ぎ目から命が溢れ出す。湯気が立つ血がリュウへと流れ出し、地についていた膝を濡らしていった。びたびたと動く四肢は生命のあがきではなく、死に行く体の反射運動でしかない。動きはどんどんと小さく弱くなり、一度ぴんと全身を張って、それきりになった。
    命がたち消えたとき、脇腹の鋭い痛みとともに、リュウの指先に火が咲いた。
    火は鱗持つ生き物の動きを持ってなめらかに指先から手のひらへと、まるで懐くかのように広く灯る。火は倉庫の奥にいた人物の輪郭を浮かび上がらせた。頭に乗せたひろい山高帽の縁は真っ赤だった。自分の手と同じように。ゆっくりと近づいてくる足音に話しかける。
    「奪った」
    「ああ」
    囁くようなリュウの細い声に、ラオはただ現状の肯定する言葉しか返さなかった。「何を」とは聞かなかった。

    奪われるばかりの人生だった。何であろうと誰相手であろうと、一度たりとも奪ったことなどない。ひどく飢えようとも。
    そんな人生の中、生まれて初めて他者から奪った物はあまりに重い。どんな汚いものでも。そして、自分に宿った炎はこれから先も、非常な宿命を自分に課すだろうことを示していた。知らず手が震えていた。覚悟はしていた、だからこそ火は、証は、自分に宿ったのだ。けれど足元はぬかるんでおぼつかない。掌に残る潰れる命の感触。むせかえる錆の湯気たつにおい。
    しゃがんだラオの影が目の前に落ちてきて、リュウは顔を上げた。掬うように手を取られる。震えを悟られないように奥歯を噛み締めたが、果たして無駄だっただろう。ラオの手も自分の手も、滴るほど血に濡れていた。
    「大丈夫か?」
    「ああ」
    返す声は、自分でも驚くほど掠れていた。
    「私も奪った」
    ラオがいた倉庫の奥から、いく筋もの細い血がのたうって流れてきていた。おもちゃのボールのように色を失った中年男の頭部が転がっている。人身売買は一人では行えない。買い手がいるからこそ成立するものだ。離れた胴体に纏うスーツは美しい色をして裕福さを表していた。
    ふれた心地よい手の暖かさが自分へと滲んできて、リュウはようやく相手を見る余裕が生まれた。目の前の男は、帽子の鍔だけではなく、顔にも勢いよく血がこびりついていた。
    「ラオは大丈夫か?」
    「ああ」
    はっきりと答えるラオの声に迷いはない。対して自分はどうだろうか。手はいまだに細かく震えを刻む。
    「……恐ろしいか?」
    こちらを見抜いたラオの言葉に、ゆっくり頷く。
    恐ろしい。
    ああそうだ、ただただ恐ろしい。己の手が。成し遂げたという強い思いすら、それが打ちのめしてくる。濡れた膝はもう冷たい。
    リュウ、呼ばれて視線を合わせる。
    ラオはいつものように、変わらず穏やかな目をしていた。揺れなく黒く、深い。
    「これから先やむを得ず何かを奪う時があるだろう」
    「ああ」
    「立てない、そう思う時もあるかもしれない」
    ラオは血にまみれた地面に膝をついた。血は乾いた生地に吸い上げられて、リュウと膝と同じく汚れていく。
    「それをすべて分かち合おう」
    ラオの手に指に力が入る。血と脂ですべる皮膚を繋ぎ止めんとする強さで。まるで骨まで絡ませるかのように。
    「恐ろしさも後ろめたさも、悲しさも。共に死ぬまで」
    握った手を引かれる。倉庫の扉から入り込んだ光が、ラオの顔をリュウにくっきりと見せる。赤に染まった顔だというのに穏やかで、強い。手に引かれて、地中に縫い付けられたかのようだったリュウのひざが、何事もなかったかのようにすっくと伸びた。
    「共に」
    リュウはラオの言葉を繰り返す。ラオはそれに頷いた。
    「誓おう。お前と一緒に死ぬときまで」
    リュウはラオの手を強く握りかえす。ひとつになろうとするほど強く。お互いの爪が食い込んでもかまわなかった。これほどまでに祝福された言葉があるだろうか。リュウは鼻奥から込み上げるしょっぱさを、喉に流し込んで堪えた。
    「ずっと、共に」

    誓いを返すリュウの声は、濡れて震えていた。
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    yosieeeeeeeeee

    DOODLE楚さんと郭ちゃん。楚さんしかでてこん。
    すべての名前というもの忘れたくないから日記をつける、そう聞いたことがある。

    歳にしては幼い文字で書かれたノートを楚は無表情にめくる。罫線に沿って行儀よく並んだ文字が話すのは、日々起こる事件とそれをうけての郭長城の気持ちだ。
    人の日記を勝手に見るのは大変失礼な行為だ、楚にもそれくらいのことは分かっている。踏み込まれたくないプライベートというものは人それぞれあり、楚自身にももちろんある。
    日記というものがそれに当たるというなら、机の上に無防備に忘れていくべきではない。そんなことだから、誰もいない特調所で机に足を乗せられ、こんなふうに楚にプライベートを踏み荒らされるはめになる。
    楚は好んでこの新人のプライベートを漁りたいわけではない。郭長城、海星艦の役職付きの身内の入所。その立場の人間をスパイと疑うのは筋違いではないだろう。内外の敵を見張るよう命を受けている楚には、その人物が書きつけている日記を把握しておく必要性があった。押し付けられた教育係は心底面倒臭かったが、内実を探るには好都合ではあった。役に立たない、それすらも演技かもしれないのだから。
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