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    kghayu1046

    @kghayu1046

    ジャンル外の落書き置き場。

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    kghayu1046

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    画像で上げるのがめんどくさくなりました
    一括で順番通りに上げてんのにうまく上がらない…
    蛇足に更に蛇足というかオチをつけないと生きていけない

    一応変換もした
    https://sscard.monokakitools.net/shinsho_php.html

    「ねえロナルド君、たまには外で食事でもしようじゃないか」
    上機嫌に言うドラルクの片手には一枚のチラシ。内容は表面だけのようで俺からは真っ白にしか見えない。
    手元でそれをうちわみたいに持って目を細めるコイツは随分と楽しそうだ。
    ああ、悪い予感がする。これはあのパターンだ、ポストに割引券とかのヤツだ。
    しかも食事ときた。絶対俺が割を食うじゃねえか!
    「はあ?お前人間のメシ食えねえじゃん」
    「フフフ、世間知らずの5歳児は知らないかもしれないが、世の中には吸血鬼の食事も人間の食事も一緒に出すところなんていくらでもあるんだよ」
    「知ってるわ!」
    「ヴァー!」
    「ヌー!」
    そうじゃなくてお前が行くって言う時点で怪しいんだよ!
    足元に落ちてきたチラシを拾って中身をチェック。
    「えー…『吸血鬼気分になれる』?『吸血鬼が人間と一緒に楽しめる食事がコンセプト』…?つまり、吸血鬼のも人間のも一緒に出す飯屋ってことか」
    「それ私がさっき言っ」
    「でもこれって普通だよな?そこらへんの居酒屋だって吸血鬼用のメニューあるもんな」
    だが普通のレストランなら、コイツが行きたいなんて言うはずがない。今度はジョンを抱き上げてチラシを見せてみた。
    ジョンも興味あるの?チラシを見てるジョンかわいい。ちっちゃい手でチラシを掴んでるのかわいいな。
    「ゴリルド君、そういう店に食べられない吸血鬼と行ったこと無いだろう?」
    「まあ」
    塵の中から起き上がってくるドラルクがやっぱり楽しそうに目を合わせながら言ってきた。
    「幸い今日は休みだし、さっそく今から社会見学だ!」
    「いやメシ食ってる前で血飲まれるの嫌なんだけど」

    ◇◇◇

    なんとなく流れで来たけど、この店本当に人間も入っていいんだろうか。
    煌々と照らされた普通の雑居ビルの外観とは裏腹に、エレベーターでテナントの入った階に上がってみれば随分と薄暗い。
    目の先3メートルぐらいにある古い洋館モチーフの入口が辛うじて分かるくらいだから相当暗いぞ。消防法とか大丈夫か?一瞬廃ビルに迷い込んだかと思ったわ。
    「吸血鬼が後ろに立ってもこれじゃ気づけないな」
    「えっそう?」
    「冷てえ!」
    「ヌー!」
    吸血には格好のシチュエーションだし注意しとかないと、と思った瞬間に首筋に手をあてられた。うわっ!反射で裏拳が出ちゃっただろ!ジョンに当たったらどうすんだ!ていうか今の怖いからやめろ!
    「考えてみたらポストに入ってたチラシって…絶対また変態が出てくるだろ。メシ食う時に相手したくないんだよ!もう見たしいいだろ帰るぞ」
    「ヌー…ヌンヌヌヌヌヌー」
    「えっ何ジョンおなか空いたの?じゃあここじゃないとこ行こう?肉とかなんかおいしいもの食べようぜ!」
    いくらジョンの頼みだってこの店は気が進まない。
    このクソ砂は今からこの調子じゃずっとからかってくるだろうし、こんな暗い所でよく分からん吸血鬼と対峙することになったら多分無事にはすまないと思う。主に施設が。
    「ようこそカフェ『ブラン城』へ。何名様ですか」
    ってワチャワチャやってたら店員さん来ちゃったじゃねーか!
    流石に店の前で立ってるのはまずかったかな。でも暗いし微妙に逆光になってて相手の顔もよく見えない。
    今目の前にいるのは吸血鬼か…?
    「あの、えっとすみません…」
    「2名で。あと使い魔一匹」
    「あっ、オイ!」
    「かしこまりました。お連れ様人間のようですが、お席はいかがなさいますか?人間向けの席と吸血鬼向けの席がございます」
    「そうか、個室ってあったな…じゃあ吸血鬼向けの方で」
    「承りました。ではこちらへ」
    店員さんが体をずらして見せた店内は、映画館みたいな非常灯で足元が照らされていた。

    ◇◇◇

    「暗い」
    「そうかね?それよりメニュー決めた?」
    いやだから暗くてよく見えないんだよ!テーブルにちっちゃいオイルランプ1つだぞ!
    個室とは言ってもカーテンで仕切られたなんちゃって個室…のはずだ。本当に暗い。動くと微かに聞こえる布の擦れる音で判断してるだけだ。ちょっと高級そうな音だから分厚いカーテンだと思う。光も漏れてこないぐらいにはな!
    せっかく通路側の席確保したのに!
    今見えるのは、オイルランプと、オイルランプに照らされた小さなベルと、自分の手元にあるよく読めないメニューと、向かいでメニューを開くガリガリおじさんの肘から先だけだ。
    ちなみに席につくまでに机の角にぶつかったり椅子を掴みそこねたりといろいろあって、その度に煽られたので着席後脛蹴りで気が済むまで殺した。
    ということで段々この状況に疲れ始めている訳だ。
    「暗すぎてメニューなんて読めるかよ」
    「では私が選んであげようか。吸血鬼気分になれるだけあって、家で作れないような珍しいものが多いみたいだ」
    「食えるのにしろよ」
    「大丈夫、ジョンもいるしちゃんと人間用の選ぶから」
    もういいだろう、読めないならこっちで頼むぞ、と言いながら、暗闇からひょいと手が伸ばされる。
    この腕の持ち主の顔は見えないが、ランプの明かりで微かに煌めく赤い瞳が笑ってるのは分かる。
    見えないけど今の俺の状態を見てご満悦なんだろ!クソ!
    「吸血鬼ならこの程度の明かりでもはっきりと見えてしまうからな。こうやって暗いというだけで行動が制限されるなんて、人間は不便だねえ」
    「声だけでもムカつく」
    チリンチリンと何だか場違いなんだかそれっぽいんだか判断が付きかねるベルの音で店員さんがやってきた。声から多分さっきと同じ人だ。
    「お決まりですか」
    「えーと、このシングルブラッドをグラスで。あと人間用のやつで、ブラッドソーセージ、血豆腐、ズーシエガオ、パッパス・デ・サラブーリョ、あと取皿と小さいスプーンとフォークください」
    「何て!?」
    「シングルブラッドをグラスで1点、ブラッドソーセージ、血豆腐、ズーシエガオ、パッパス・デ・サラブーリョをそれぞれ1つずつご注文でよろしいですか?」
    「エァッ、確認ありがとうございますでもそういうことじゃなくて」
    「ええー、ここまで来て何言ってるんだ。ホラホラ、もう店員さん来てくれたし、早く頼むぞ。あっ君飲み物は自分で決めてよね」
    「ねえ今頼んだやつそれ人間用なのマジで!?食べていいヤツなの!?」
    「だから言っただろう、お子ちゃまには難解だから選んでやると。ビールでいい?」
    結局飲み物もお前が決めるのかよ!ビールでお願いします!
    そうじゃない、そこじゃなくて何だ今の。めちゃくちゃハッキリ血ってメニューに入ってるんだが?これ吸血鬼用のメニューじゃないの?
    メニューをパラパラ捲りながら指差す手の動きを見たって、文字が見えなきゃ分かりっこねえ。
    ンアアアアどうすんだ!今更ランプ近くまで身を乗り出してメニュー見るけど下の方は見えねえ!俺が食えるやつを探さないとこのクソ砂におもちゃにされる!
    なんでこんな字ちっちゃいんだよ見せる気ねえだろ!でもなんか見えてる文字もなんか血とかブラッドとかめっちゃ多いような…?
    ジョンの反応見たら分かるかなと様子をうかがってみても、ドラルクの膝の上なので鼻先の影しか見えないし、注文するのに邪魔しちゃいけないと思ったのか大人しい。
    ウエーン!ジョンせめて俺の方にいて!安心させて!
    「血って聞こえてるからさァ…ホントに吸血鬼用じゃねえの?後半とか絶対ネタ的なやつだろ」
    「当店では『吸血鬼気分が味わえる』をコンセプトに世界の血を使った料理を提供しているんです。今頼まれたものは初めての方でも食べやすくてバランスいいと思いますよ」
    「そうだぞ、生き血を使うようなものだってあるのに、ちゃんと火の通ったやつから選んでやったんだ、感謝しろビビルド君」
    「えええ…えー、でもなんかちょっと食べるのはじめてなの多いんで、軽いやつから試してみたいなって…ホラ見た目とか」
    「見えないんだから気にしなくていいんじゃない」
    「気にさせろ!」
    「照明持ってきましょうか?」
    「気を遣ってもらってスミマセン!」
    店員さーん!ゴメン、俺別に血が食べたくて来たんじゃないんだ。血って多分アレだろ、レバーみたいな味だと思うんだけど、ちょっとならいいんだけどたくさん食べたいとは思わないんだよ、こんなんで来ちゃって本当にゴメン!
    食べられるものだけ頼む派だから、いきなり何か分かんない食べ物が出てきて、もし残しちゃったらと思うと申し訳なくならない?
    俺そういうの気になるんだよ、頼むからリスク管理させてくれ。
    じゃあコイツに頼ませるなって話だよな!ジョンがいるから変なもの頼まないと思ってたんだよチクショウ!
    「ヌンヌヌヌヌヌヌ、ヌンヌンヌヌ」
    「えっ、ジョンが食べるの?ええ…」
    「ジョンには全部なんて食べさせられないから君も食べろ」
    「ヌン…」
    「ジョンは私が取り分けるから、それだけにしときなさい!」
    「ヌェー…」
    ホラ早くしなよと、トントンとメニューを叩く白い手袋の動き。
    多分ジョンの好きそうなもの選んだんだろうけど、何ジョン免罪符に強行突破しようとしてんだ、俺にも選ばせろ!いや俺は見えないんだから多少はこっちの意向を聞けよ!店員さん来ちゃったからってお前が呼んだんじゃん!
    ええ…どうする…考えロナルド。最近行った居酒屋の吸血鬼メニューを思い出せ!そこに活路があるはず!
    だからトントンやめろ!
    部屋の入り口にいる店員さんは影しか見えないから、身じろぎする気配だけでめちゃくちゃ焦る。
    この店員さん、声の抑揚なくて怖いんだけど!さっきので気ィ悪くしてないよね?全然分かんねえ!何かしゃべって!お願いだから!
    「ヌヌヌーヌ…」
    「今更足掻いたってしかたないだろうが。ジョンも待ってるんだから早く諦めるんだな」
    「うう…ジョンが食べたいなら…」
    「では注文は以上で?」
    「はい。あ、ビール頼んでます?よかった。以上で。楽しみだねえ、ジョン」
    「ヌー!」

    ◇◇◇

    目の前から美味しそうな匂いがする。
    結論から言って流石ジョンだった。見た目は分からないが匂いは全部美味しそうだ。
    ジョンは子供用の椅子を持ってきてもらってお行儀よく食べてる、ように見える。丸い影と時々キラッと反射するフォークの動きしか分かんないけど。
    アイツもジョンの世話でこっちを煽ってくることはない。たまに手が伸びてきて、自分の目の前のグラスを持ち上げたり降ろしたりしてる。
    まあジョンを見てても始まらないので、俺も暗い中、多分こうやって食べるんだろうと予想しながらなんとか食事している。
    机の上のランプが本当にお気持ち程度なので、全体的に飯が逆光でしか見えないんだよな。
    さっきから何度かチャレンジしてるブラッドソーセージ。フォークでソーセージを追いかけてみるが、ツルンと滑ってうまく刺さらない。駄目だ、これ以上深追いすると多分皿から落とすことになるか、目の前のクソ砂に気づかれておちょくられるかのどっちかだ。とりあえず何でもない風にビール飲んで、ソーセージは…今は諦めて別の食おう。
    今度はスプーンに持ち替える。スープだろう器にスプーンを突っ込んで持ち上げるが、それは口に入る前にほとんど器に落ちていって、何が入っていたのか確認できなかった。
    うん、でもスプーンから味がする。匂いと一緒の味だ、これならちゃんと見えて、具に変なのが入ってなければ食えそう。
    見えてればな!
    さっきから平ったいヤツとぷるんぷるんしたヤツしか食えてねえ!
    多分、ぷるんぷるんしてるのは血豆腐だ。名前だけはよく聞くから存在は知ってたけど、食べたのは初めてだ。居酒屋じゃ吸血鬼用のメニューだったと記憶してるんだが、人間が食べていいのか?
    でもこれ自体にあんまり味がしない、何これ…遠くから塩味が手を振ってる…。ぷるぷるにかかってるちょっと辛い汁おいしい。
    平ったいやつ、なんかきな粉味なんだけど、餅なの?つぶつぶの舌触りで噛むともちもちしてる。おいしいけどもしかしてこれデザート?それともこういう飯なの?おはぎ的な?
    ジョーン!助けて!向かいにいるはずなのに見えない…ヌシャヌシャ言ってるけど見えないよジョーン!俺に正解を教えてくれ!何が正しいの?これ食べ方あってる?血を食べてるはずなのに血の味がほとんどしないんだよ何でだよ!俺は一体何を食べてんの!?正直分かんなくなってきた。そりゃ今すすってるこのぷるぷる味しないしね!
    もしかして俺の味覚がおかしいのか?吸血鬼の能力に知らぬ間にかかってるとか?
    ビールだけが俺の知ってる味!あー、うまい。癒やされる。ダメだ、こんな飲み方してたらすぐに酔っ払う。
    「なんだい君、さっきから全然手を付けてないじゃないか。冷めてしまうぞ」
    「うるせえ」
    くそ、こっちの様子を気にし始めたか。ここでうまく食べられない所を見せたらまた煽られる。
    とりあえずきな粉食おう。
    「ああ、もしかして見えなくて困ってる〜?さっきからポロポロこぼちてまちゅよ〜」
    ヘイヘイと煽る目が俺を見ている。
    クソ!きな粉さえ食ってなければ言い返してたのに!今口開いたら絶対噎せるしテーブル全体にきな粉を拡散する未来しか見えない。
    「まあ冗談は置いておいて、せっかく来たんだ。たとえ辛うじてフォークが使えるゴリラだって美味しく食べる権利はある。この暗い席だって、吸血鬼がどこまで見えてるのか分かると仕事にも繋がるしいいかなと思ったんだけどね。さすがにちょっと見ていて痛々しいから、優しい優しいこのドラルク様が手伝ってあげよう」
    腹立つ!ムカつく!脛蹴り!
    腹立つけどまあなんか考えてたんだなってのは分かった。ちょっとワヤワヤしてるけど俺のこと考えてくれてたんだな。
    …まあ思い返せば料理とかそういうのに対してだとコイツも結構真面目なんだよな。
    いやふざけることはふざけるけど、悪ふざけして作るってより、ちゃんと作った結果がアホのクッキングになる系だから…こういうところはまとも、なのか…?バカなだけな気もするけど。
    駄目だ、真っ暗で目の前からそういうの汲み取れない。だけど現状楽しんでるのは経験上はっきり分かるんだよクソ砂ァ!
    「ほら、あーんしてみろ」
    「バカ野郎、おっさんにあーんされて嬉しいと思ってんのか!」
    「君こそ見えてないくせに何言ってんだ!さっきからやたら挙動不審で見てるこっちがいたたまれないんだよ」
    見えてたなら言えよ!チクショウ恥ずかしいだろうが!!
    「ジョン見てるのかと思ったらソーセージはひっくり返す寸前だわ、飽きたのかシチューぐちゃぐちゃかき回すわ、かと思ったらお餅食べ始めたはいいけどきな粉撒き散らすしナッツは全部落とすし!お行儀の悪い5歳児の食事を見守ってる気分!このままだと5秒後に肘にビールがあたって倒すわよ!」
    うるせえー!暗いんだよ!仕方ないだろ!お母さんみたいな言い方すんじゃねえ!!
    人からどう見えるかまで考えてなかったんだよ!こっちも必死だったんだよおー!!
    暗がりから腕がにゅっと出てきてスプーンを掴む。本気か?
    「ホラ5歳児!いいから食べたまえせっかくのシチューを冷ますつもりか?早く口を開けろ!」
    くそー逃げ場がねえ…暴れられないが暴れて有耶無耶にしたい!!それも子供扱いされそうで嫌だけど。
    うわあ目の前に、目の前に、
    「う、うおおおお後で殺す!」
    「君が食事もまともに出来ないのが悪い!ホラあーん」
    「ウガアア…」
    ヤケクソで口を開けてスプーンを呼び込む。セロリじゃなければなんとか…エアッもしかして罠か!?いやセロリじゃない、舌に乗ったスプーンの味はあのスープだし匂いもしない、よし大丈夫だ。
    にしても何乗っけてんだでかすぎて鼻についちゃったんだけど!
    スプーンまでの距離を目算してもう一度大きく口を開けて一気に突っ込む。オラ!もうスプーンしまえ二の腕プルップルしてんぞ!メシに砂入ったら殺す!
    大きなひとくちだったせいで口の中が動かせない。固形物とスープを一気に口に入れたから大変なことになってる。
    これ出来立てだったらヤバかったな。
    しかもスープがドロドロで口の中に残る…とりあえず飲み込めるもの飲み込んで体勢を…うわ、何か上顎ピリピリする。カレー?本場の辛いやつみたいな味だ。ドロドロくそ重てえ。喉に張り付くから何回かに分けないとちょっと飲み下せない。
    「どう?」
    「ンゴゴゴ!」
    「食べてから話せ!」
    「ゴオー!」
    あー、このでかいやつ内臓だ。やっと口の中が空いたので口に残った大きな固まりを噛む。最後にキシっとした食感。スープが滲みてるなあ。うまい。やっと味わえる余裕が生まれたから、ピリピリとこのスープの旨味とコリコリの食感がめちゃくちゃおいしいのが分かる。
    そういや、血の料理にしてはここまでたいして内臓無かったな。これならスープも他のも全然残さず食べられそう。よかった。
    「…全然血の味しねえ。うまい」
    「そりゃ人間のための料理だからな。もう少し面白い反応してくれると思ったのに…料理の見た目が見えないのも誤算だったな」
    まずくねえわ!何拍子抜けみたいな感じで言ってんだ!お前が席決めたんだろうが!
    「ヌイヌヌッヌ」
    「そっかー、ジョンもこのスープ好き?美味しいよねえ」
    「スープ?それはシチューだ語彙力のないゴリラ」
    「ふーん」
    「ヌー!」
    しかし残りをどうやって食うか…味の問題は解消したが、暗いのはどうしようもねえし。
    絶対もう食べさせられるのとかやりたくない。あっ、でもジョンに食べさせてもらうのアリじゃないか!?
    「ねえジョン、もう食べ終わった?あのさ…」
    「幼児退行ルド君、そんなに食べたいならスマホのライト使えばよく見えるんじゃない?取皿使って近くまで持ってくるとかさあ」
    「おいボケ!店出たら覚悟しとけ!!」
    ねえさっきのやり取り必要だった!?お前そこまでして俺を煽りたかったの?

    ◇◇◇

    結局お店にあった照明を持ってきてもらって最後まで食事したけど、照明で見えてきた料理は結構見た目がすごかった。
    黒かったりダイレクトに赤かったり…あと料理の解説がいちいち食欲を下げに来て食べるのに苦労した。なんで食べて疲労すんの?回復させろや!
    「豚の血ともち米を固めて蒸してあるヤツだ。だからその独特の色味になる。今食べてるみたいなきな粉とかナッツが乗るとまたちょっと色味がすごいよねえ、ジョン?」とか聞いて誰が幸せになるんだよ?マジで食べてるときに言うのやめろ!
    「さっきも言ったが、これはスープじゃなくシチューだ。リピートアフヴァァ!…ドロドロなのはたっぷりの血と一緒に内臓類を煮溶かしてるからだな。でも不思議と癖がないだろう?」ねえこの情報いる?しまいにゃ泣くぞ!
    俺よく食べきったな!めちゃくちゃ疲れたけど!
    ちなみに店員さんは灯りを持ってきてくれた時に初めて顔が見えたんだけど、テーブルの惨状を見てうわあって顔をしていた。スミマセンでした!

    ◇◇◇

    風が吹くと寒く感じるようになってきたけど、酒と疲労で火照った体にはちょうどいい。
    「はあー、とんでもない目にあった。もう二度と行けねえな、あの店」
    「ヌンヌヌー」
    ジョンの顔が憂えている…マジでゴメンな…。
    見た目はエグいものが多かったけど料理も美味しかったし、コンセプトも異文化を知るという意味では結構勉強になった。
    今度また取材させてもらえねえかな…いや、さすがにもうコイツとは恥ずかしいな…。ショットとかマナー違反とか誘ってみてもいいかもな。
    「面白かったけど、なかなか経営が難しそうな店だったな」
    ポツリと後ろから声がする。振り返ってみるとジョンを抱えたドラ公がついてきている。
    「なんで」
    「吸血鬼としては別に珍しくもないし、人間と吸血鬼とで行くなら、まあ君みたいな問題が多すぎるんじゃないかね」
    俺は優しいので近くにいるときは足蹴りなんて陰湿な殺し方はしないぜ!
    「見えないからってか?」
    「そこは些細な問題だろ、アホルド君みたいに意地っ張りじゃなければ早々に灯りを用意してもらうだろうし」
    「ほー?じゃあどうしてなんですかー?」
    「いちいちコミュニケーションを暴力に頼るなこのゴリラ!つまりだ、あの店はリピート客が付きづらいのだ!吸血鬼同士なら普通の飲食店でしかないが、吸血鬼と人との組み合わせだと爆裂に不便度が上がる!人間側は言わずもがな、吸血鬼の方は人間の世話をしつつの食事になるので非常に面倒くさいし、料理もクセがあって人を選ぶ。人間同士で行くのなんてネタとして一回行ったらもう十分だろうが」
    「まあ確かにもう二度とお前とは行きたくねえなァ!」
    「奇遇だね、私もだよ」
    二人して嫌味に笑ってみせる。
    ああ、やっぱりこうやって隣で、こんなふうに言い合いしながら一緒の家に帰るのが楽しい。
    「今度はジョンと二人で行こうか」
    「ヌー」
    「馬鹿野郎ジョンは俺と行くんだよ!」
    こいつが来る前ってどうやって過ごしてたっけ?なんだか遠い昔みたいだ。
    蛍光灯がポツポツと道路を照らす。もうそろそろ事務所に到着だ。
    「明日からまた仕事か…」

    ◇◇◇


    「その前に原稿ですね」
    「ヴェボラッウェッアッブエェーー!!」
    「今日が締め切りですよ」
    「君また…ていうかもしかして逃げてたから誘いに乗ったのか!?」
    「いや違う完全に忘れてたスミマセンすぐやりますちょっと待って!あと数行なんで!ホント!すぐ終わると思って後回しにしてて!」
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    手元でそれをうちわみたいに持って目を細めるコイツは随分と楽しそうだ。
    ああ、悪い予感がする。これはあのパターンだ、ポストに割引券とかのヤツだ。
    しかも食事ときた。絶対俺が割を食うじゃねえか!
    「はあ?お前人間のメシ食えねえじゃん」
    「フフフ、世間知らずの5歳児は知らないかもしれないが、世の中には吸血鬼の食事も人間の食事も一緒に出すところなんていくらでもあるんだよ」
    「知ってるわ!」
    「ヴァー!」
    「ヌー!」
    そうじゃなくてお前が行くって言う時点で怪しいんだよ!
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    「えー…『吸血鬼気分になれる』?『吸血鬼が人間と一緒に楽しめる食事がコンセプト』…?つまり、吸血鬼のも人間のも一緒に出す飯屋ってことか」
    「それ私がさっき言っ」
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