リップクリーム「いたっ……」
「琥珀?」
創は声の方へむくと、琥珀が唇を押さえて少し不機嫌そうに眉を顰めていた。創が琥珀の唇を見ると、どうやら切れたらしく少し血が出ていた。傍らに置いてあるティッシュを少しとり、琥珀に渡す。
「唇荒れてるなー」
「あまり荒れたこと無かったから……痛い……」
「舐めちゃダメだって、酷くなる。あ、そうだ!」
そう言って創は机の引き出しをあけ、何やら小さいものを取り出すと琥珀に渡した。それはリップクリームだった、けれどそれにしては売られているものより小さいような気がする。
「試供品貰ってそのままだったのよねー、とりあえず使ったら?」
「あ、ありがと」
「いいって。男でもリップクリーム持つのおかしくねーから。俺も使うし」
ほら、と創が自分のポケットからリップクリームを見せてくれた。そう言われると創の唇はいつも綺麗な気がする、そう思いつつ琥珀は試供品を開けて塗った。
開けた時鼻に香りが入る、特に嫌いな香りではなかったが、もう少し香りがなくて、優しい感じのがすきだが……と思ってしまう。そして、やけに色のついたリップクリームのような気がする、と思ったが試供品とはいえくれたものだ、その好意に礼をしつつ塗っていく。
「あ……それ色つきだったのか……」
「色つき?」
「ほら」
そう言って創は鏡を渡す。琥珀が見ると唇に薄く色がついてるように見えた。淡いピンクが塗られており、男であるが琥珀に違和感がなく可愛らしい印象を与えた。
「すげぇ、色つき似合うな琥珀」
「褒めてるのかそれ……」
創が思わず感心して言った時、インターホンが鳴る。どうやら二人が待っている相手が来たらしい、創が出迎えに行って数分して、二人の共通の親友……琥珀にとっては恋人である鈴鹿が部屋に入ってきた。琥珀の顔を見た鈴鹿は、そのまま近寄るとそっと顎を優しく掴まれた。
「……? 鈴鹿……?」
琥珀が分からず鈴鹿を見た時、おもむろに唇を重ねた。いわゆるキスを琥珀にしたのだ。遅れて入ってきた創も固まったが、一番固まったのは琥珀である。
「変な味する」
そっと唇を離し、ぺろりと舐めた鈴鹿はそう言った。一方、鈴鹿の一連の行動に顔を真っ赤に、耳すらも真っ赤にして固まりそうになった琥珀は、なんとか言葉をだす。
「……え、あ……それ、は……リップクリームだから、その……」
「琥珀、これあんま好きなやつじゃないだろ」
「え、まぁ……」
「鈴鹿、鈴鹿! 琥珀顔真っ赤だから!」
創が慌ててそう言ったが、鈴鹿は笑っていた。琥珀と創の反応が面白いのだろうか。その時、琥珀が恥ずかしそうに口を開く。
「……唇、荒れてるから、キスはその……」
「……じゃあ荒れてるの治ったらしていい?」
「……うん」
「……すげぇ甘い空気」
俺もしかして空気になってる? と創は思いつつも、二人が上手くいっているのを見て嬉しそうに笑った。