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    ちょこ

    主に企画参加の交流小説、絵など投稿してます
    よその子さん多め

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    ちょこ

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    初めての気持ち、初めての自覚 その日の夜に輝から連絡が来た。当日は何時に集合するだとか、チケットを渡しそびれたのでその日に渡すだとか、昼間言ったように彼の兄弟子である里と、奏芽の兄弟子である燕志も来るだとか、予定を話して言った。
    「では日曜日、楽しみにしてますね」
    「う、うん!! お、俺も楽しみにする!!」
     輝の上擦った、それでも嬉しそうな声と共に挨拶をしてから電話を切る。プールなど何年ぶりだろうか、高校では授業自体が無く、そもそもプールや海に遊びに行くような事も無かった。水着がないな、と奏芽は買いに行く予定を立てた。だが、一人でどれが似合うのかピンとこなかったため、一緒に買いに行ってくれる人に声でもかけようと思う。その相手は、鷹晴の奥さんだ。彼女ならいいアドバイスをしてくれるだろう。連絡すると、快く了承してくれた。早速明日買いに行こうとなりそのまま電話を終わらせた。
     どこか、心が踊っているような気がする。既に遠い記憶となっていた、久しぶりのプールに楽しみになっているのだろう。明日の身支度をすましてから寝た。
     次の日、彼女と共にショッピングモールへと行く。夏ということもあり、色んな店舗で水着が売られていた。彼女は真剣な顔をして一着を手にしては奏芽と見合わせたその時、話をされた。
    「輝くんだったかしら、その子の事どう思ってるの?」
    「……嫌ではない、と思います」
    「そう。貴方、そういうのは敏感だから……。彼だと安心するのね」
    「……かもしれないです」
     彼の話を聞いてしまった日から、自分なりにゆっくりと考えていた。まだ恋というのはピンと来てなかったが、少なくとも彼からは悪意など全くなく、むしろ真っ直ぐだ。真っ直ぐで素直、兄弟子らとも実力差はあるが、努力家でもある。それだけでも、奏芽にとっては好感度は高かった。
    「貴方、これにする?」
    「こういうの、あるんですね」
     彼女から渡されたのは、上が白で下が可愛らしいボタニカル柄のビキニ。そして上からも着れる、白いオフショルダーと薄手のショートパンツの水着だった。試着をし、彼女からも見てもらいそれにすることにした。
    「やっぱり似合うわね」
    「……少し落ち着かないです」
    「少しずつ慣れていったらいいわ。そうね……当日家にいらっしゃい、ちょっとおめかしさせて?」
    「……似合うかわかりせんよ」
    「あら、私がするから似合うわよ」
     そう言って笑う彼女が眩しく感じる。やはり人として好きだ、と奏芽は思っていた。理想像は天寿紅だが、それと同じくらい彼女も理想像なのだ。
    「当日、楽しんでね」
    「……はい」

     日曜日、奏芽が待ち合わせであるプール施設の入口付近に行くと、輝が先に待っていた。まだ里と燕志は来ていなかったが、そもそも約束の時間より少し早いため、あと少ししたら来るのだろう。奏芽に気がついた輝は、狼狽えていた。
    「おはようございます」
    「お、お、おっ、おはよう! え、えと、髪型……」
    「あぁ、ちょっとしてもらいまして」
     ここに来る前に彼女の家に来て、髪型をセットしてもらった。ショートカットなのでアレンジ出来るのだろうかと奏芽は思っていたが、彼女は手際よく編み込みをしてくれた。リボンも一緒に編み込んでくれたのか、鏡を見た時は驚いたものだ。似合っているから、と彼女に言われながら家を出てきたのだが、輝の反応を見るにおかしくは無いのだろうと思うことにした。
    「か、かわいい……」
    「髪型可愛いですよね」
    「ち、違くて……っ! い、いや! 髪型もだけど……!」
     輝は色んな表情をしながら狼狽えていた、奏芽は気づいていたが、輝の耳が赤い気がした。その時、兄弟子の二人も一緒に来た。二人も、奏芽の髪型を見て可愛いと言ってくれ、嫌な気持ちではなかった。
     施設に入り、水着に着替えてからプールへと行く。水着姿の奏芽を見てからか、輝がどぎまぎしつつもチラチラと奏芽を見る。奏芽はと言うと、服の上からでは分からなかったが、鍛えられている輝の体を見て、手が勝手に動いて輝の体に触れていた。
    「すごい筋肉ですね……」
     ぺたぺたと触っている横で、声にならない声を出す輝。
    「き、鍛えてるから……」
    「私も欲しいんですけど、中々つかなくて……」
    「か、か、かな、奏芽さん! め、捲っちゃダメ!」
    「下にも水着を着てますよ?」
    「わ、わ、分かったから!!」
     そう言いながら、顔を真っ赤にしている輝に首を傾げる。そうしているうちに、兄弟子の二人も来て少し話す。
    「どこから回ります?」
    「人多い…………」
    「さっちゃん大丈夫ですか……? 俺ら、あそこに行きますね」
     まだ泳いでもいないのだが、人の多さに顔を青くしている里。そんな里を心配してか、燕志が指を指したのは、緩やかな波が一定時間出てくるプールだった。傍には座れる場所もあり、そこに里を座らせるのだろう。そう言って行った二人を横目に、奏芽は輝に言った。
    「流れるプール行きます?」
    「えっ! う、うん!! 行こっか!」
     そう言ってぎこちなく歩く輝。緊張をしているのだろうか、と奏芽は思いつつ、少し考えて輝の手を取った。突然手を握られた輝は、飛び上がるかと言わんばかりに跳ねた。
    「か、か、かか、奏芽さん!?」
    「すみません、人が多くてはぐれそうなので……」
    「えっ、あっ!? そ、そうだね! て、て、手! 繋ぎましょ!」
     そう言って輝は手を繋ぎ直してくれた。本当に人が多くはぐれそうだったのだ、奏芽の歩くスピードに合わせて歩く輝の背中を見る。背中も、程よく筋肉が付いているのが分かる。手だってそうだ、奏芽は自分の手は他の女性より大きいと思っていたが、それでも輝の方が手が大きく、奏芽の手がすっぽりと握られているのだ。それにどこか新鮮さを覚えた、輝とは身長が5センチくらい違うのだが、それでも自分との体格差を改めて感じた。
     流れるプールにて輝と一緒に入る。入る時も、輝が先に入ってから、奏芽に手を差し出した。顔も、耳も真っ赤だったが、奏芽を気にしてくれているのは伝った。手を取ってプールに入る。流れは緩やかで、ゆっくり泳げそうだった。
    「プール、久しぶりなんですよね」
    「そうなの……?」
    「高校じゃ授業自体無かったですし……遊びに行くってのも無かったので。……なので誘ってくれて嬉しかったですよ」
     これは輝だけが分かっていたが、こう言った時、緩く奏芽が笑ったのだ。その笑顔を見て、輝は顔を赤くしてしまう。奏芽からしたら、また顔を赤くした輝に首を傾げる。ふと、急に流れが早い所に着いてしまったのか、奏芽が体制を崩しかける。それにいち早く気づいたのは輝で、思わず奏芽を庇うように抱きしめた。
    「奏芽さん……! 大丈夫!?」
    「え、あ、だ、大丈夫です。少し流れが早くてびっくりしました……」
    「よ、良かった……。………わ、わ! ご! ごめん! 抱きついて……! そういうつもりじゃ……!」
     奏芽を抱きしめていた事に気づいたのか、慌てて少し離れる輝。奏芽がなにか言おうとしたが、丁度流れるプールを一周したので、とりあえずプールから上がる事にした。上がってもなお、輝は申し訳なさそうにする。
    「ご、ごめん……! 本当に急に……!」
    「輝くんは私を庇ってくれたので、大丈夫ですよ」
    「そ、それなら……。次、どこ行こっか」
     そう言って輝はプールを見渡す。そして、奏芽は考えていた。

     輝は、あの時奏芽が聞いていた事は知らない。あの日からずっと考えていた、自分は、輝の事をどう思っているのか。今回プールに誘われて来たのだって、自分の気持ちが分かるのではと思ったからだ。天寿紅はゆっくり考えればいいと言った。天寿紅も、彼女も、輝は素直で奏芽を大事にすると言っていた。それは奏芽自身分かっていた所もある。さっきだって、体勢を崩した奏芽を庇ってくれたのだから。自分を見ては顔を赤くしたり、右往左往する様子はあるが、自分を気にかけていないと咄嗟にあの反応はできない。
     言葉から、態度から、奏芽を大事にしようという気持ちが伝わる。そして、それが嫌ではない事も分かっている。輝はいい人だ、優しくて素直で、真っ直ぐで。その真っ直ぐさが眩しい時もある。輝が眩しい、眩しくて……そして……、輝の隣は心地よい。
     この心地良さはなんだろうか。言い方としては、息が吸いやすい。そして、彼の前なら笑えているような気がするのだ。本当に笑えているか分からない、あの日から笑う事を恐れ、目を逸らし続けたと言うのに。そんな自分に、輝はあの時笑って欲しいと言っていた。
    「えと、か、奏芽さん。あそこ行きましょ」
     そう言って輝は恐る恐る、と言った様子で奏芽の手を取った。さっきみたいに手を繋いで歩くらしい。手を繋いで歩いているとき、輝の後ろ姿を見る。自分は、彼の事をどう思っているのだろうか。いや、もしかしたら……。もう自分は、答えを見つけているのかもしれない。
     その時、奏芽の気持ちが、今の今まで絡まっていた紐が、綺麗に解けた気がした。奏芽は立ち止まる、見つけた、分かった気がした。これが、自分の気持ちの答えなんだ、と。立ち止まった奏芽に、輝は後ろを向く。
    「奏芽さん……?」
     呼んでも返事がない輝は、もしかして体調が悪くなったのかと焦るが、奏芽はジッと輝を見ていた。そして、口を開いた。
    「私、輝くんの事が好きって気持ち、分かりました」
     あの時聞いた話で、天寿紅の前で泣いてしまっていた事を思い出す。怖い、色んな気持ちが混じって怖い、と。今なら、怖くない気がした。だって、分かったのだから。人を好きになるというのは、こういう事なのだ、と。天寿紅も、彼女も、兄弟子の事だって好きだ。憧れもあるし、理想像ともしている。だけれど、それらとは全く違う感情だ。これが、初めての恋というのだろう。
     それは、奏芽にとっては初めての気持ちだった。
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    Replies from the creator

    ちょこ

    DONEよそのこさんお借りしてます
     倒された落武者を見て終わった事を察した、里は刀を仕舞うと、燕志の元へ行く。まだ後ろ姿でしか見れてないが、息が上がっているのか肩が上下ゆっくりと動いているのが分かった。里は小走りで走ると、燕志に声をかけた。
    「えーじ……」
     里の声に気づいたのか、燕志が後ろをむく。怪我をしない日はないのではと言うほど、燕志はよく怪我をする。今もこうして、腕を斬られたのか一部服が血で滲んでおり、そこだけではなく他の所も怪我をしているのが見て分かった。これは看護班の所に連れていった方がいいな、とそう思った矢先に、燕志から唐突に抱き上げられた。
    「え、えーじ下ろして……」
    「……」
    「……えーじ……」
     これが初めてではなかった、落武者との戦闘が終わっても昂っているのか分からないのだが、こうして里の事を抱き上げるのだ。里としては、自分を抱き上げるより治療しに行って欲しいのだが、強く拒絶してはいけない気がして、あまり抵抗出来ないのだ。先程のように、一応下ろしてと言ったが、降ろされたことは無い。そうしているうちに、燕志は里を抱き上げたまま歩き出した。このまま看護班の所へ行くのだろう。
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