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    ちょこ

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    にこく
    楝の過去話
    よその子さんお借りしてます

    自由の一歩 生まれた頃から、多羽流 楝は"女"として育てなければならない運命が決まってしまった。理由は、楝が男として産まれたからだ。昔から、多羽流家は女に産まれると家が繁栄し続ける、と言われてきた。どの代からそう言われたのかは不明なのだが、少なくとも、昔からそう言われていたという文書だけが残されていた。それを信じていた家の者からすると、産まれてくる子供も、勿論女を望まれていた。
     本来なら、男児を産んでしまった母親に一番の責任がいくため、即座に離婚なりされてしまい、家を追い出すのだが、当主──楝の父親が大層、母親に惚れ込んでいたため、その処罰はしなかった。代わりに、楝が生まれた後、妹が産まれるまでに楝を女として育てる。と決定したのだ。
     そのような事があり、物心着く前には楝は"女"として育てられていた。男のように身体が成長しないように、様々なこともされていた。最初は違和感を抱かなかった楝だったが、それも長くは続かなかった。明らかに普通の子供の状況とは違う事に、幼いながらも感じ取っていたが、それを指摘した時の家の者の冷たい目線が怖く、そして抗えない事に少しずつ気づいていた。

     楝が五歳になった頃、楝の妹が生まれた。生まれた時はお祭りのような大騒ぎだったのだが、楝は妹の顔すら見させては貰えなかった。だが楝にとっては、これが家族というものなのか、と泣きもしなかった。
     妹が順調に育ち、妹七歳、楝が十二歳になった頃、楝の扱いが変わっていったのを感じ取った。周りのものが妹にかかりきりになり、誰も楝の事を、まるで居ないものかのような扱いをし始めた。その頃から身体の成長、女とは真逆の体、そして、早めにやってきた声変わりのせいで、楝は声すら出すのを咎められてしまった。
     息苦しく生きていた楝だったが、たまに会える従兄弟──游樂との時間だけは、少しだけ心が落ち着ける瞬間だった。游樂の前だけでは、筆談ではなく喋って話せた。けれど、声変わりした自分の声を聞くのすら嫌い、ボソボソと、か細くしか話せなかったが、それでも游樂は聞き漏らすことなく、話をしてくれた。
     楝は游樂の手に目がいった。綺麗に手入れされており、自分よりも大きな手だった。楝から見ても游樂は綺麗だった。所々女性らしい仕草のようなものが見えるが、れっきとした男だと感じ取れた。
     だが自分はどうだろうか、女として生きるには中途半端で、けれど男として生きていくには小さすぎる。
     自分は、このまま中途半端で、どっちつかずの存在として生きていくのだろうか。
     游樂の前だと言うのに、上手く呼吸が出来ない感覚に襲われていた。怖い、自分は一体なんなのだろうか。ふと、その時、游樂が楝の頭を優しく撫で始めた。人から撫でられるなど、今まであったか忘れてしまっていたため、撫でるという行為をされた事が一瞬分からなかった。
    「自由に生きれたらええのにね」
    「……」
     自由ってなんだろう。今の楝には分からない言葉だった。

     それから何年か経った夜、満月が綺麗に夜空を光っていた頃、十八歳になった楝は道を走っていた。着の身着のまま、腰を越すほどに伸びた髪が月の光に照らされて綺麗に反射していた。あの日、言われた游樂の言葉である『自由』をずっと考えていたのだ。妹が成長していくにつれて、ますます居場所が消えていく。このまま、自分の存在すら消えてしまうのか、と前までの楝だったら諦めてそれを受け入れていた、はずだった。
    「……自由……」
     楝はそう呟いたかと思うと、そのまま家を飛び出した。体が勝手に動いていた、ずっと走っているからか、呼吸が、胸が苦しくなり、足が痛かったが、少しでも止まると家の者に捕まる恐怖が襲いかかり、止めることなくがむしゃらに走った。
     走って、走って、走って、足をやっと止めた場所は、遊びに来たことのある游樂の家だった。游樂が居てくれてることを願いながら、呼び鈴を鳴らす。何度か鳴らした後、物音が聞こえ、玄関の戸が開いた。
    「……楝? 一体どうした? 何かあったのか?」
     楝の様子を見て、心配そうに怪我してないかを確認した游樂。足は靴が脱げて裸足で逃げたからか、少し血が滲んでいた。髪も服装もボサボサになっており、確かに游樂から見たら心配してしまう見た目になっていた。
     久しぶりに会えた游樂を見ながら、楝は口を開いた。

    「僕、軍人になりたい」
    「……軍人になる? 本当に?」
     游樂が、楝の覚悟を見るかのように目を合わせる。久しぶりに見れた游樂の顔を見て、ずっと笑い方を忘れていた楝の口元が、ほんの少しだけ口角が上がったような気がした。その後に、口を開く。
    「……うん。もう家に僕の居場所がないんだ。僕は、僕がいてもいいという意味が欲しい」
    「……なるほどね、意味を見つけたいわけか」
    「……」
    「……とりあえず今日は泊まりな。足の怪我、治療しなきゃな」
    「……うん」
     家の中に入り、風呂に入った後に足の怪我を見てもらった。少し血が出ていたが、テープなどを巻いたあと、唐突に楝はハサミを片手に髪を切り始めた。ザク、ザク、とざっくばらんに切り始めたのを見た游樂は、慌てて止める。
    「そないに雑に髪を切ったらあかんねん!」
     いつも標準語で話す游樂が珍しい、と楝が思いつつも、聞く耳を持たない様子で切り続ける。女として育てられた代償と言っていいほどに、伸びた髪が床に落ちていく。少しずつだが、軽くなってるような気がしていた。
    「もう切りたかったから」
    「あーっ! 貸して!」
     ハサミを取られ、動かないでね、と釘を刺されたあと、游樂が集中してるかのように、ざっくばらんになった楝の髪を整え始めた。慣れた手つきで整えた後、手鏡を持ってきてくれ、楝に見せた。
    「……肩についてる」
    「こんぐらいが丁度いいのよ」
     そう言って、游樂は楝の髪型をハーフアップにする。似合う、と游樂が言った後に、楝はじっと鏡を見ていた。
     これが楝なりの、自由の一歩と言っていいのか分からなかった。けれど、今までの楝から考えると、明らかに変わろうとして歩んだ一歩でもあった。
     軍人になれたら、自分がいてもいいという意味が必ず見つかるかもしれない、生きてよかったと思える日が来るかもしれない。
     そう思いながら、髪が変わった自分の姿をじっと見ていた。こころなしか、嬉しそうな表情にも見えて。
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