髪結い 何年かぶりに守優と再会した楝。守優もまた、楝の従兄弟である游樂に用があったらしく、たまたま、二人は再会したのだ。
「懐かしいなぁ、この部屋で絵しりとりしたもんねぇ」
お茶を飲みながら、游樂は二人をみて懐かしむように目を細める。楝は何気なく部屋を見渡す。どこか変わらない風景に、心が落ち着くようだった。
「せっかく二人揃ったことやし……髪、結わせて?」
游樂がそう言うと、いつの間に持ってきたのか分からなかったが、髪を梳かす櫛、髪をセットするのに使うスプレー、綺麗な飾りがついているものから、シンプルなものまで揃っている簪と、無地から色んな柄がはいっているリボンまで持ってきていた。楝はその光景を無表情で見ており、守優は目をぱちくり、と瞬きしつつも、嫌そうな顔はしていなかった。
「まず守優からね、丁度似合いそうな簪あるんよ」
「游樂兄さんがそう言うなら」
他愛もない話をしつつ、游樂は慣れた手つきで、守優の髪を綺麗に解いてから櫛で梳かす。楝は何もすることがなかったため、ぼんやりと二人の様子を見ていた。髪を梳かした後、スプレーを少ししてから小さな花が散りばめられた簪を手にすると、あっという間に髪をまとめあげ、前髪を少しだけ三つ編みにし、編み込みにした後、また数本簪をさしていた。
「う〜ん、やっぱ似合うねぇ」
「この花、桜……?」
「そうそう、新作なんよ。締め付け平気?」
「大丈夫」
綺麗に一つにまとめている守優をじっと見つめる楝。そして、自分の髪をそっと触る。楝は綺麗に着飾れるのをあまり好きではなかった。昔の、"女"として育てられ、着飾るのを強制させられていた事をどうしても思い出してしまい、どうしても後ろ向きな感情になってしまうのだ。
楝自身もよく分かっていなかったのだが、守優と同じ髪型にしてみたい、と思ったのだ。今までだったら、無地のリボンをつけるのすら嫌っていた楝だったが、今だったら簪もつけても大丈夫、なような気がしたのだ。
少し考え、楝は游樂の服を少し掴む。游樂は楝の方へ顔を向けた。
「ん? どしたん?」
「………………おそろい、が、いい……」
楝は游樂に耳打ちをした。てっきり、楝が着飾るのを嫌っているのを知っている游樂は、断りの返事をするのかと思っていたからか、少しだけ驚いた表情をしていた。そして、嬉しそうに笑ったのだ。
「なら次は楝やなぁ」
「……うん」
游樂から髪を触られるのは嫌ではなかった。どうしても、他人から触られるのを嫌う楝からしたら、信頼を置いている游樂からしてもらうのは、心のどこかで安心していた。
「お前さんの髪を触ると、ハサミで切り始めたあの日を思い出すね……」
「游樂兄さん、発狂したんやろ?」
「だって……」
「だってじゃなくてね……」
あの日を思い出しているのか、もう二度とあんな切り方をしないように、と言われつつ守優と同じような髪型にしてもらった。楝の髪型を見た守優は、ニコニコと笑っていた。
「おそろいだね」
「……うん……」
あまり表情が変わらないように見えたが、口元などが無表情とは違い、緩んでるように、いわゆる嬉しそうな表情にも見えた。
「髪だけじゃなくて、服も選ぼうか」
なにかスイッチが入った游樂が、楽しそうに服を取りに部屋から出ていくのを見つめつつ、楝は部屋に備え付けられていた鏡を見た。守優とおそろいの髪型、改めて見て、嬉しそうに口元の口角が少し上がった。