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    現パロ軸での大学生謝×黒猫范の謝范なる
    強めの幻覚を見ています。

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    現パロ軸、大学生謝×黒猫范の謝范です。出会い編。
    幻覚が強い話なのでご注意ください。

    ##黒猫謝范

    帰宅寸前の必安はニィニィと鳴く小さな、小さな声で足を止めた。
     猫だろうか。普通に過ごしていれば気付かないほどの鳴き声は今にも途絶えてしまいそうで、必死で辺りを見渡す。気付かなかったなら無視も出来た。きっと数日もせずに尽きてしまう命だろう。それでも必安には聞こえてしまったのだから仕方ない。
     自宅、古アパートの共同階段。コンクリ製のそれをぐるりと回った階段裏の物陰に隠されるようにして、小さな黒色の子猫がいた。黒一色の毛並みの中で金色の目だけが爛々と輝く猫がいた。こんな人目に付かないところに捨てられたのは、早々の処分を避けるためか、それとも元飼い主が罪悪感から逃れるためか。そのどちらだったのかは分からない。けれど黒猫が丸くなっている段ボールには毛足の長い暖かそうな毛布と、数日分は優にありそうな餌が皿に盛られて置かれていた。更に、ちらりと毛布をめくった下にはペットシーツまで敷き詰められていて、元飼い主の愛情さえ感じさせた。
     けれど今は冬だ。もうすぐ雪解けの季節とは言え、まだ暖かさなど微塵も感じない。様子を見るためにポケットから出した指先から霜焼けになりそうで、必安は敷かれていた毛布の半分を持ち上げて黒猫に掛けてやった。
    「ほら、毛布をしっかり被って。このままだと凍えてしまうよ」
     毛布で全身をくるみ、額のあたりを撫でてやると黒猫は困ったような顔をして、それから目を閉じて、「ウニィ」と鳴いた。その声が弱々しくて、もう今すぐにも死んでしまいそうで。見ていられない。自分では世話なんてできないのに、このまま見殺しにしようとはとても思えなかった。
     少し待っていて、そう言い残し、部屋から適当な器と水を持って降りる。
     ペットボトルから器へと、とくとくと注いだミネラルウォーターを差し出しても、猫は強く警戒し飲もうとはしない。水が苦手なのかもしれないなと、無理に進めることはせずに手を引く。けれどよく見れば、キャットフードも食べられた様子がない。猫は猫なりに、自分のこれからを理解しているのだろうか──。
     箱の中、餌鉢の隣に水を置き、必安はその場を離れた。そもそもこのアパートはペット禁止だ。今日は面倒を見たけれど必安にも飼うことは出来ない。上京してきた大学生の身分では、引き取ってもらえそうな宛てに心当たりもなかった。
     けれど必安は、翌日も、その翌日も人目を盗んで黒猫に会いに行く。懐く気配は微塵もない。勝手に『ウニ』と名付けた黒猫は、どちらかと言えば必安が近寄るたびにびくりとして箱の隅へ隠れるように丸まる有様だ。相変わらず何も食べてはいないのか、毛並みの下は痩せぎすで骨が浮いているような有様。今はまだだけれど、もしも今後懐いたとしてどうするつもりなのだと自分を叱咤する。餌やりだって本当はすべきではないだろう。それでも見捨てることも出来ずに数日の時間、残り少ない猶予期間は簡単に過ぎていく。
     そしてついに。あれほど懐かなかった、自身以外の全てを警戒してぶるぶると震えていたウニが、餌を乗せて手を差し出した必安をぺろりと舐めた。別に親愛の印というわけでもない。餌を一口食べる時に、一緒に舐められたくらいのものだ。それでも必安は嬉しくて、猫を両手で包み、そっと撫でた。改めて触れたその体は見た目よりもさらに小さくて、痩せていて、弱っていて。自分の二本の手ごときに出来ることなんてほとんど無いのに、それでも守るようにしばらくずっと、ゆっくりゆっくりと必安は撫でた。

     翌日、猫の箱の前に人だかりが出来ているのを見つけた。こんな狭い空間に四、五人が集まれば表側からも異常は簡単に察せられる。
     必安ももちろん近付いて、まるでそこに『何があるか』まったく知らないような顔をして、元々いた一人に話しかけた。
    「どうしたんですか」
    「猫だよ誰かが世話してたみたいなんだけど保健所にはもう連絡したから。明日引き取りにくるそうだ」
     どうしよう。
     どうしようもないだろう。必安に出来ることなどほとんど無い。昨日自覚したばかりだ。でも、だからと言って、そのまま見殺しにすればいいだなんて思えなかった。
     しばらく様子を見て、人だかりが少しずつ減ってついに必安一人になってから、ウニに話しかける。
    「ウニ、明日までに逃げなよ。殺されてしまうよ。僕は猫を飼うことができないから」
     風呂に入れてやることも出来なかったぼさぼさの黒い毛並みを撫でると、猫はいつものようにンニィと鳴き「猫じゃなかったら飼えるのか?」と返事をした。
    「は……?」
     返事──? 一体誰が、と思っても近く見える範囲には誰も居らず、目の前の薄汚い段ボールの中にウニがいるだけ。黒色の毛玉は段ボールから這い出して、しゃがみ込む必安の膝に乗り、いつもの声で「ンニィ」と鳴く。ウニが自分から何か行動を起こしたことなんて今まであっただろうか。これはもう舐めた舐めないの騒ぎどころではない。
    「早く。それともヒトに見つかるのを待っているのか」
    「そんなわけない!」
     また、話しかけられた。紛れもなく膝の上の黒猫が喋った。
     意味が分からない! 意味が分からない! 意味が分からない!
     必安の知る黒猫は、人の言葉を話さない!
     でも、猫は飼えないがとりあえず明日を回避してから考えるのも、悪い、悪いことだけど。そうなんだけど。今ここでウニを見殺しにすることなんて必安には出来ない!
     そうと決めてからの必安の行動は早かった。膝の上の黒猫を段ボールに戻し、毛布で覆う。猫は暴れもせず大人しく丸まっていて、まるで必安がどうしたいのか、この決断を既に理解しているかのようだった。辛うじて付いていた段ボールの蓋を閉じ、しばらくの間だけ暗闇に耐えてくれと心の中で暗示ながら、アパートの隅に備え付けられたコンクリ階段を駆け上る。
     途中、住人とすれ違い、びくりと肩が跳ねた。猫を持ち込んだこと、気付かれただろうか。けれど何も言われることはなく、必安は振り返りたい欲求をどうにか耐えて自室まで駆け寄り、震える手で鍵を回して、部屋へ飛び込んだ。
     バタン。
     自然と閉まるよりも早く。片手を伸ばしてドアノブを握り、引き寄せる。扉が音を立てて閉まる。今朝、出かけたきりの部屋の中は遮光カーテンが閉まったままで、外が昼間だなんて信じられないくらい暗かった。暗くて、決して広くはない部屋の中に閉じこもり、必安はウニを段ボール越しに抱きしめて、へなへなと玄関にしゃがみ込んだ。
    「連れて、来ちゃった……」
    「その決断に感謝する。一生忘れはしないだろう」
     段ボールからまた声がして、内側から蓋が開かれウニがぬるりと抜け出してくる。猫は液体、だなんて。そんな要らぬ知識をふと思い出しながら、必安は茫然とそれを眺めた。
     暗く閉じられた、箱のようなアパートの一室。黒猫は見つめる先でぐ、と背伸びをして、それから、必安が瞬きを一つした僅かな隙に、消えてしまった。必安の視界から黒猫は一瞬にして消え失せ、代わりに、ぼさぼさの黒髪長髪の全裸の青年が一人、見知らぬようでなんだか馴染みを覚える青年が一人、アパートの玄関に堂々と立ち、必安を見下ろしていた。
    「猫じゃなければ、飼えるのだな?」
    「犬も、インコもダメだよ」
     理解が追いつかないまま、少しずれた返事をする。青年はそれを聞いてニヤリと笑い、「人間なら良い、とは。傲慢なことだな」と全く不快ではなさそうな声音と表情で吐き捨て、それから大きく伸びをした。
     暗い部屋でも、眼前に全裸のブツが晒されれば流石の必安も我に返らされる。とにかく、とにかく。黒猫のウニが人間になった。化けたのか、変身したのか、分からないけれど、今一緒にいるのは間違いなく人間の男。それは確かだ。
    「ウニ、なの?」
    「お前がそう呼ぶ黒猫と同一個体かという意味なら、是だ」
     青年が軽く頭を振る。長い黒髪が少ない光の中でふわりと揺れ、そして、部屋の中に埃と落ち葉クズを撒き散らした。
    「ウニ! お風呂!」
     ゾッと肌が粟立った。一体何日風呂に入ってないんだこいつは。まさか生まれてからずっと? 少なくともあの段ボール内に風呂は無い。そんなものが必安の部屋に居るなんて耐えられない、今すぐに、全身くまなく毛の一本まで洗わなければ。
     状況を飲み込む云々を飛び越えて、無理やり飲み下して青年の手を取る。靴を脱ぎ捨て、服は着たままに風呂場へと彼を連れ込み、床に座らせ、頭のてっぺんから湯をかけた。
    「何をする!」
    「お風呂! 僕の部屋で暮らすなら、まずはお風呂!」
    「ンニィっ」
     聞き覚えのある声をあげてウニが呻き、観念したのかじっと静かになった。髪を洗われるのはそれほど悪い心地はしないのだろうか、気持ち良さげに目まで閉じている。髪を洗い流す、ぱしゃぱしゃと湯が跳ねる音は必安の心に少しの平静を贈ってくれた。
     分からないことばかりだと思っていたけれど、実はそれほどではない。ウニの姿が変わったという一点以外、何も変化はないのだから。
     じっとりと濡れて張り付くズボンの上にウニが寝転がる。十分に背丈のある青年になっても、やはり猫は猫なのだろうか。
    「ウニ、僕を選んでくれてありがとう」
     考えることはたくさんあるけれど。もしかしたら、ただ生き延びるためだけに目の前にいた必安を利用したのかもしれないけれど。必安も、あの黒猫が生きているという事実が一番大切で、それだけで良かったから。
     うとうとと眠り始めそうな青年を立たせ、身体についた水分を拭き取っていく。あちこちにある擦り傷に、肋骨が浮き出るほどの痩躯。まずは、食事から考えていかないといけない。
     こうして、必安と黒猫だった男との共同生活は幕をあけたのだった。
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    DOODLE大学生謝×黒猫范(ウニ)の幻覚強めの現パロ謝范。喫茶店で働くウニの話。「今日のおすすめは?」
    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時 3015

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    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時 3015