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    現パロ軸での大学生謝×黒猫范の謝范なる
    強めの幻覚を見ています。

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    大学生謝×黒猫范(ウニ)の幻覚強めの現パロ謝范。喫茶店で働くウニの話。

    ##黒猫謝范

    「今日のおすすめは?」
    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時間まであと一時間。ウェイターのシフトが終わるまであと二時間。
     彼の視界には入りにくく、こちらからは十分に眺められる奥の角席に座りながら、必安は文庫本のちょうど半分あたり、昨日の続きのページに視線を落とした。耳を澄ませれば聞こえる程度の音量でクラシックのジャズアレンジと、見知らぬ誰かの談笑が程よい雑音として漂う店内は読書をする環境にとても合う。
     そうして意識を本に潜らせて十分弱、目の前に置かれたソーサーのコトリとした小さな音で視線を上げた。いつの間にかウェイターが近くまで来ていて、小さなコーヒーカップをソーサーに乗せる。

    「お待たせ致しました、オリジナルブレンドでございます」
    「うん、ありがとう」

     店主からの方針や指示があるのだろうか、客である必安がコーヒーに口をつけるよりも早くウェイターは去っていく。必安はそんな彼にお礼の一言以上には声をかけず、湯気のたつカップに口をつける。今日も変わらずここの店主が淹れるコーヒーは美味しい。砂糖もミルクも加えず、真っ黒なまま飲むのがいい。まだ熱いそれを二口ほど啜り、香りをたっぷり楽しんでから、必安は再び本の世界に没頭し始めた。
     本を読む。時々思い出したように少しずつぬるくなっていくコーヒーを一口飲む。一節読み終えたあたりで顔を上げ、伝票を取りコーヒーを運ぶウェイターの背中を目で追う。体型に合う細身のシルエットのシャツと、腰に巻いた茶色のカフェエプロン。長い黒髪は三つ編みに結ってフープにして留めている。贔屓目込みかもしれないけれど、ここの制服は彼によく似合う。あまり見つめると気配に鋭い彼に気づかれてしまうから、その前にまた本に目を落とす。
     そうして、時計の針はくるりと回り、一時間が飛ぶように過ぎていく。

    「閉店のお時間となりますので……」

     木板の床を足音もなく歩くウェイターがテーブル一つひとつを回っては声をかけていく。談笑していた客たちは時計をちらりと見てはもうこんな時間だ、と口々に言い、ドアベルを鳴らしながら必安の視界から消えていき、最後に扉がパタンと閉まった。

    「ウニ、」

     閉店を過ぎても当たり前のように居座り続け、片付けられていく店内で一人コーヒーを飲み干す。それから、机を拭き、椅子を磨き、床はモップをかけて走り回る彼の名前をそっと呼んだ。
     振り返ったその姿。喫茶店のウェイターから、ウニの顔になってにかりと笑いながら近付いてきて、必安の前に残されていた空のコーヒーカップを手に取った。

    「もう少し待っててくれ」
    「分かってるよ。でも、待つんじゃなくてウニを眺めて過ごしているんだよ。少しも苦じゃないから気にしないで」
    「それで必安が楽しいならいいけどさ」

     よく分からないといった顔をしてウニが去っていく。カウンターの向こうに広がるキッチンで皿を洗う姿がチラリと見える。喫茶店でのアルバイトは案外楽しめているらしい。社交性で言えば、必安よりもずっと秀でているようにも思う。
     ずっと自分の庇護下で笑っていた彼が広い世界を知っていくのが、嬉しいような、寂しいような。いや、やっぱり寂しい。
     考え事に耽る間に時間は過ぎて、もうそろそろホールの清掃も終わる頃だろう。手に持ったままさっぱり読んでいなかった文庫本に栞を挟み、ぱたんと閉じる。この続きは、また明日。同じようにここで読めばいい。

    「必安、おまたせ、なんだけど。待たせたついでにもう少し付き合ってくれないか?」
    「いいけど、どうしたの?」

     着替えも終え、パーカーにジーンズのラフな格好に変わったウニが駆け寄ってくる。その手には、先ほど片付けたばかりのコーヒーカップがひとつ。

    「これ、必安に飲んでもらいたくて」

     小さな動揺を隠すような落ち着かない仕草で目の前にカップが置かれる。その中身は、外見ではとりあえず何の変哲もないストレートコーヒー。
     少し嗅いで、首を傾げる。知らない香り、新しい豆なのだろうか。
     やけにそわそわとしたウニの視線を浴びながら、ひと口。少し固まって、念のためもうひと口。

    「ウニ……、これ、何……?」

     端的に言って、不味い。
     かろうじてこの液体に使用した豆が今日飲んだブレンドと同じであることは分かる。けれど、なんというか、味は薄いのに妙に煙っぽくて、多すぎるお湯に美味しいコーヒーの粉を溶かして飲んでいるような、そんな味。一杯全て飲み干すにはせめて砂糖とミルクが欲しくなる。ウニは、どうしてこれを……。

    「いや、いいんだ。ごめんな必安。無理に飲まなくていいから」
    「誰がもう飲まないなんて言ったの」

     必安の手元に握られたカップへ伸びるウニの手をさらりと避けて、もうひと口。ほんの数秒で味なんて変わるはずがない。それでも、これは。

    「ねぇ、ウニ。これ、ウニが淹れてくれたの?」
    「んにっ?! なんで……」
    「うーん、愛かな」

     この店のブレンド豆に、店主には程遠い味。それから、ウニの落ち着かない様子。状況から推測しただけではあるけれど、当たっていたらしい。
     必安の言葉に耳を染めて明確に慌て始めるウニの可愛らしさと言ったら。
     あはは、と声に出して笑ってまた、ひと口飲む。今日のこの味を、ウニが初めて淹れてくれたコーヒーを、ずっと覚えておこう。明日の味も、明後日のものも。これから、上手になっていくであろう彼の、その記録を全て、全て──。
     ウニの終業を告げる、柱時計の低い音で顔を上げた。最後残った半分は飲み干して、喉に残る酸っぱさの際立つ味に少しだけ苦笑してカップを手に立ち上がる。

    「ごちそうさま、ありがとう。ウニさえ良ければまた淹れてくれる?」
    「ああ、もちろん!」

     満面の笑みを見せた彼は必安の手からカップを受け取って裏へと消えていく。
     大学帰りの喫茶店。日々の楽しみがまたひとつ増えたことを嬉しく思いながら、必安はウニと一緒に二人の家へ向かって歩き始めた。

     翌日、必安に飲ませたコーヒーらしき液体を試飲してもらった店主によって、ウニが淹れ方の厳しい指導を受けることになるのは、また別の話。
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    DOODLE大学生謝×黒猫范(ウニ)の幻覚強めの現パロ謝范。喫茶店で働くウニの話。「今日のおすすめは?」
    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時 3015

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    DOODLE大学生謝×黒猫范(ウニ)の幻覚強めの現パロ謝范。喫茶店で働くウニの話。「今日のおすすめは?」
    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時 3015