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    現パロ軸での大学生謝×黒猫范の謝范なる
    強めの幻覚を見ています。

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    現パロ猫范の話、続き。

    ##黒猫謝范

    コツ、コツ、コツ、と規則正しく秒針が鳴る。
     築三十年、八畳に簡易キッチンの古アパートの自宅で必安は見知らぬ男を前に正座していた。対する"見知らぬ男"はと言えば、風呂上がりのドライヤーをひどく嫌い、他人の家に上がり込んだにも関わらずときおり雫の滴る黒髪の先をクッションに垂らしながら大あくびをしている。
     先の質問に対する返事は、未だ無い。

    「もう一度聞くけど、人間なの?」
    「今はヒトの形をしているが、俺は猫だ。たぶんな」
    「猫は姿を自由に変えられるってこと?」
    「知らん」

     知らん、と言うことはないだろう。現に今、目の前にほんの少し前まで猫だった男が座っているのだ。彼が特別なのか、それとも猫は皆そうなのか。それを聞いているだけなのに。
     ウニと名付けた猫を部屋に連れ込んでから早一時間。猫がなんとなく親近感の湧く外見の男に代わり、衝動的にシャワーを浴びせ、いつまでも彼が全裸では必安の心地が悪いと適当な部屋着を無理やり着せて、今に至る。
     質問は一向に進まず、人見知りする自身の性格故に笑顔の引きつる必安に対し、なんとも自由な、それこそ猫のような奔放さでぼんやりと過ごす男。全くどうしたものか。助けを呼べる相手に心当たりもなく、必安は途方に暮れるしかなかった。
     そんな必安の前で男がごそごそと動き、苦労して着せたTシャツをポイと脱ぎ捨ててしまった。呆気に取られる視線の先で今度は腰を上げ、灰色のスウェットまで脱ごうとする始末。

    「ああ、もう! 何してるの! ウニ!!」
    「やっと、呼んでくれたな」

     辛うじて下着だけは身につけているだけの半裸にまでなった男──ウニが、思わず立ち上がった必安を見上げて、困ったように眉を垂らしてそう言った。その顔を見てはっとする。必安にだって事情というか、現状の仕組みは分かっていないが、彼にとって現在の環境は更に未知で恐ろしいものだろう。
     ヒトの勝手な都合で明日までの命だと宣言され、必安に部屋へ一応の同意程度で連れ込まれ、慣れないシャワーにドライヤー。それから、質問攻めなのだから。

    「ウニ、ごめん」
    「別に謝ることではないだろ」
    「僕を焚き付けるために脱ぎまでしたの?」
    「それは単純に、肌に何かが触れ続けているのが不快だっただけだ。ヒトの身体も毛を生やせばいいのに」

     つるりと滑らかな腕を眺めて顔をしかめるウニに思わず笑ってしまう。部屋に満ちていた重苦しい緊張感は一瞬にして溶け落ちて、息がしやすくなったとまで思う。

    「こっち、おいで」
    「ん、」

     のそのそと四つん這いで動くウニが必安の隣に来て、軽く曲げた膝の隙間にするりと収まった。近くで話したかっただけなのに、こんなに近くに来てくれるのは予想外で、冷えた湯の滴る黒髪が必安の部屋着をぐしゃりと濡らした。これは、着替えなくては。それから彼を温めるためのバスタオルも必要だ。ウニに今日すぐ無理に服を着せる必要はないだろうから、まずはタオルで布に慣れてもらうのもいいかもしれない。
     後ろから軽く抱きしめるように片腕を回し、反対の手は髪を撫でる。ウニは気持ち良さげに首を傾けて、目を閉じて静かに撫でられていた。
     ああ、そういえば。

    「名前、本当の名前はあるの? 生みの親に付けてもらったものとか」
    「あるぞ、范無咎だ。けど、家族と会うことはもう無いだろうからな。ウニでもいい、気に入ってもいる」
    「ファン、ウジン。ウニ。ふふ、じゃあ好きな方で呼ぼうかな」
    「それでいい」

     ウニがひとつ、大きなあくびをする。時計の秒針は相変わらず、コツ、コツ、コツ、と規則正しく動き続けている。
     その、時計に視線を動かした一瞬の隙に。

    「ウニ? 眠かったの?」
    「んにぃ……」

     必安の下着をタオルケット代わりに全身へ巻いて、猫の姿に戻ったウニが必安の膝を枕に寝息を立てている。一体いつの間に姿を変えたのだろう。さっきまで人間の男だったというのに。

    「濡れたまま寝ると風邪をひくよ」

     一度のシャワーで随分と艶やかになった毛並みに指を潜らせながら数度撫で、大判のタオルを取ってくるためにびしょ濡れのウニをクッションの上に降ろす。バスタオルは、ちょうど新品があったはずだ。何かのギフトでもらった、自分用に使うには少し勿体無い余分なバスタオル。けれど、ウニに使うならちょうどいい。
     バスタオルに包んだウニを優しく拭きながら部屋に満ちる空気の穏やかさに微笑んだ。一人暮らしを寂しいと思ったことはないが、他人と共に過ごす暮らしも悪くはない、そんな予感がした。
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    xroooop

    DOODLE大学生謝×黒猫范(ウニ)の幻覚強めの現パロ謝范。喫茶店で働くウニの話。「今日のおすすめは?」
    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時 3015

    recommended works

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    DOODLE大学生謝×黒猫范(ウニ)の幻覚強めの現パロ謝范。喫茶店で働くウニの話。「今日のおすすめは?」
    「オリジナルブレンド……です」

     このやりとりも、もう何度目になるだろう。大学の帰り道、少しだけ遠回りした商店街にあるこの喫茶店に寄るのがもう当たり前の日常になっていた。
     扉を開けた途端に広がるコーヒーの香りと、軽やかに来客を知らせるベルの音。店の奥で皿を洗っていたウェイターが早足に近づいてくる。こちらを見て、ぱっと笑顔に変わって、仕事中であることを思い出したかのように一瞬の真顔を経てから作り笑い丸出しの下手くそな微笑みに変わる。
     手書きの伝票をポケットから取り出して、持ち慣れてきたらしいボールペンをカチリとノックして。それから、改まった他所行きの声で話しかけてきた。

    「お客様、ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」

     それで、冒頭だ。
     必安はいつも今日のおすすめを尋ね、彼はいつもオリジナルブレンドをすすめてくる。この店のおすすめではなく、彼のおすすめを聞きたいのだけれど、一生懸命に働くウェイターに意地悪をしたいわけではないから。じゃあそれで、の一言をいつも通りに返して、必安はボディバッグから黒色のカバーをかけた文庫本を取り出した。
     店の閉店時 3015