2/14 その日夜遅く、協会で野暮用を済ませてきたと言う葉佩を部屋に招き入れ、まずは茶でもどうだと声をかけた皆守は葉佩が傍らに無造作に置いた小さな紙袋から小箱が覗いていることに気がついた。
「おい、それ」
それ、が紙袋のことを指していると気がついた葉佩は、しまった、という顔で紙袋をソファの端へ押しやる。バツが悪そうに紙袋を視界から外し、かといって皆守の顔を見ることもできずにテーブルの上辺りに視線を彷徨わせながら、葉佩はうん、と一言返事をした。
「協会でさ、前組んだことある人がチョコくれたんだけど、いやほら、なんかこういうのは断れないじゃん……。義理だし、そういうのじゃないから、あの」
普段は快活に話すくせに、しどろもどろに弁解する姿は叱られた犬のようだ。どうやらパートナーがいながら他所でチョコレートをもらってきたことで、関係に不和を引き起こすかもしれないと今更不安になったらしい。皆守はぐだぐだと顛末を話す葉佩を遮った。
「ふうん、そうか。じゃ、あとでコーヒーでも淹れるか」
「お……こってない?」
「……怒る? なんで俺が、製菓業界の陰謀を真に受けてめくじら立てなきゃならないんだ。……それに」
「?」
「お前がチョコレートより欲しい物をやれるのは、俺だけだからな」
皆守の言葉を聞いて、葉佩が弾かれたように顔を上げた。
「甲ちゃん、それって……こ、今夜、その」
葉佩の声が上擦る。
「もちろんだ。まァ、その分じゃ随分期待されてるみたいだしな。まずは先に風呂、済ませてこいよ」
散歩と聞いた犬のようにそわそわする葉佩を脱衣所に放り込むと、皆守は台所へと消えていった。
葉佩が大急ぎで風呂を済ませ、居室に戻るとテーブルの上にはカレーが用意され、食欲をそそる香りが漂っている。ちょうど配膳を終えた皆守は急いで風呂から出てきた葉佩に微笑んだ。
「随分慌てて済ませてきたな。どうだ? やっぱりチョコレートより断然、こっちがいいだろ?」