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    jd1011wanwan

    ジャククルの過去ログです。たまに新作もあげています。
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    jd1011wanwan

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    ジャククル
    バレンタインカードのお返しネタ
    ※カードの文面は載せていませんが、とある文言から膨らませたお話

    #ジャククル
    jakkl.

     用意をした贈り物は靴用クロスとクリームにブラシ。それらがすっきりと収まった箱につけたカードは5回書き直しをした。
     もちろん大した内容は書いていない。好きだと伝えるなんてもってのほかで、授業の感想ですら油断をしたら想いが滲んでしまうんじゃないかと記すことは出来なかった。
     結果として紙面に残ったのは、贈り物へつける一般的なフレーズのみだ。
     何ならカード類には、最初から印字されていてもおかしくないような定型文を、慎重に一次ずつ書いていき、自分の名前を記そうとしたところで思い留まった。
    「――何やってんだ、俺は」
     そもそも家族以外への贈り物など初めてのくせに、イベントごとにかこつけて用意して渡そうなどと、周りがバレンタインだなんだと浮かれ、その空気にあてられてしまったんだろうか。
     まったくもって自分の柄じゃない。
     そう思うと急に恥ずかしくなり、衝動的に箱を掴みゴミ箱へ棄ててしまいたくなる。けれどそれを思いとどまらせたのは、贈り物を選んだときに脳裏に描いた姿で、贈り主として名乗らなければ良いだけの事だと無理矢理自分を納得させた。
    「……すげえ量だな」
     忍び込んだ魔法薬学室のデスクの上は、大小様々なサイズの箱と紙袋が積まれていて、やはり何だかんだ言いながらもこの人は生徒に愛されているのだなと思う。その一方で胸の辺りはチリチリとした燻りが生じ、溜息をつきたくなりながら、なるべく邪魔にならなそうなスペースに箱を置いた。


     それからしばらく過ぎた頃、メッセージカードが来たという話が密やかに聞こえてくるようになった。
    「――教員へ物品を贈ることは感心しない。一番のプレゼントは次のテストで良い成績を収めること、だってさ」
    「お返しも文面も全部同じなんだな。まあ当たり前か」
     もちろん教員だからか表立って物品を渡すわけにはいかないらしく、カード共に渡された返礼品は植物園で採取できる花を使った化粧品類。それらも気まぐれで作っている時に手伝った有志へ順番に分け与えた、ということになっているらしい。
     みな同じ文言で書かれた手紙も、化粧品類にも興味はない。それに名を書かなかった自分に声がかかるわけがない。
     それが分かっていても、なんとなく面白い気分ではなくて、深く息を吐くと廊下に出た。
    「――ちょうどいいところで出会ったな、ジャック・ハウル」
     その瞬間、何よりも先に届いたのは、甘さと瑞々しさが入り混じる香りだ。恐らくは獣人属でとりわけ鼻が利く者にしか分からないほど微かなそれは、身に纏う本人のイメージとは少し異なり、余計に惹きつけられるものだ。
    「クルーウェル、先生……」
    「今日の授業が終わった後で、少し魔法薬学室に残るように」
     すれ違いざまに聞こえた言葉はさっきまでのモヤモヤとしたものを吹き飛ばしたが、全く違う感情を植え付けた。


    「――まったくもって面白みのないメッセージだったな」
     赤いグローブに包まれてもなお細いと分かる指先が、あの日箱に添えた覚えのあるカードの端を摘まみ、ひらひらとそれを揺らす。
    「ッ!? ……どうして俺だって」
    「どの生徒がどんな字を書くか、この俺が覚えていないとでも?」
    「まさか全員分覚えているのか!?」
     ふふんと勝ち誇るような表情を浮かべるクルーウェルに思わずそう返すと、微かに眉を下げて面白そうに笑い出した。
    「そんなわけないだろう、冗談だ。おおよそは分かるが、全員とは断言できないな。ただしこれはお前だという確信はあった」
     ふっと今度は僅かに困ったような様子を浮かべる。クルーウェルはいつも強気に笑っているイメージがあるが、実際はよく表情を変えていた。それはつい見つめてしまっていたからこそ気づいたことのひとつだ。
     今のこの表情は何を意図しているのだろうと顔を見つめていると、長い睫毛を伏せ、手のひらサイズのカードを取り出し、返事だとそれを手渡してきた。
    「読んでも良いッスか」
     書いてある内容は分かってはいたけれど、やはりこの目で確認をしたくてそう問うと、好きにしろとクルーウェルは頷く。
     それを確認してから封を開け上質な手触りの紙を取り出すと、惚れ惚れするような美しい字とわずかながらあの香りが漂った。
     そして――

    「化粧品や食べ物ばかりが並ぶ中、唯一のシューズケア用品。あの時期は雪混じりの雨が多く、この靴には負担が大きい時期だった。俺がこの靴を大切にしていると分かるくらい、熱心に見つめてくる仔犬は限られているからな。ただし、書いたとおりだ。俺を喜ばせたいのなら次のテストで良い点を取れ、ジャック・ハウル」
     妙に饒舌なクルーウェルの言葉は、文面と相まって否応でも鼓動を早め、体温を上げていく。
     書かれていた文面は、一見すると聞いていた内容と同じだった。
     けれど、さり気無く一文が付け加えられていた。それは自分が想いを寄せていることを知っていると言わんばかりでもある。
    「あの」
    「これはお前へのお返しだ。ファッションはディティールにまで気を遣え」
     問う前に言葉は遮られ、手渡されたのはやたらと軽い小さな袋。化粧品類ではないことは分かるが、匂いもなく開けてみるまでは何が入っているのか見当もつきそうにない。思わず照明に透かせてみようとすると小さく笑う声がして、カッと頬が熱くなった。
     ガキっぽいと思われてしまっただろうかと視線を窓の外へ逃すと、クルーウェルの声がそれを引き戻した。
     もう一度手を出すように言われ差し出すと、赤い革手袋がふんわりと重なる。驚きで硬直している間にその手は離れ、残されたのはグラシン紙の上に乗った小さな半円型のチョコレートだ。
    「俺が満足するものを贈った、ただ一人への特別なご褒美だ。お前は体温が高いから、さっさと口に入れないと溶けてしまうぞ――用件は以上」
     俺は会議があるからと言い、クルーウェルはふわりとコートを揺らして背を向ける。
    「次のテストでは満点を取る」
     あんたを喜ばせるために、という宣言への返事は、秘密を共有する悪戯っぽい笑みだった。
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    jd1011wanwan

    DONEジャククル
    バレンタインカードのお返しネタ
    ※カードの文面は載せていませんが、とある文言から膨らませたお話
     用意をした贈り物は靴用クロスとクリームにブラシ。それらがすっきりと収まった箱につけたカードは5回書き直しをした。
     もちろん大した内容は書いていない。好きだと伝えるなんてもってのほかで、授業の感想ですら油断をしたら想いが滲んでしまうんじゃないかと記すことは出来なかった。
     結果として紙面に残ったのは、贈り物へつける一般的なフレーズのみだ。
     何ならカード類には、最初から印字されていてもおかしくないような定型文を、慎重に一次ずつ書いていき、自分の名前を記そうとしたところで思い留まった。
    「――何やってんだ、俺は」
     そもそも家族以外への贈り物など初めてのくせに、イベントごとにかこつけて用意して渡そうなどと、周りがバレンタインだなんだと浮かれ、その空気にあてられてしまったんだろうか。
     まったくもって自分の柄じゃない。
     そう思うと急に恥ずかしくなり、衝動的に箱を掴みゴミ箱へ棄ててしまいたくなる。けれどそれを思いとどまらせたのは、贈り物を選んだときに脳裏に描いた姿で、贈り主として名乗らなければ良いだけの事だと無理矢理自分を納得させた。
    「……すげえ量だな」
     忍び込んだ魔法薬学室のデスク 2496

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    DONEジャククル
    バレンタインカードのお返しネタ
    ※カードの文面は載せていませんが、とある文言から膨らませたお話
     用意をした贈り物は靴用クロスとクリームにブラシ。それらがすっきりと収まった箱につけたカードは5回書き直しをした。
     もちろん大した内容は書いていない。好きだと伝えるなんてもってのほかで、授業の感想ですら油断をしたら想いが滲んでしまうんじゃないかと記すことは出来なかった。
     結果として紙面に残ったのは、贈り物へつける一般的なフレーズのみだ。
     何ならカード類には、最初から印字されていてもおかしくないような定型文を、慎重に一次ずつ書いていき、自分の名前を記そうとしたところで思い留まった。
    「――何やってんだ、俺は」
     そもそも家族以外への贈り物など初めてのくせに、イベントごとにかこつけて用意して渡そうなどと、周りがバレンタインだなんだと浮かれ、その空気にあてられてしまったんだろうか。
     まったくもって自分の柄じゃない。
     そう思うと急に恥ずかしくなり、衝動的に箱を掴みゴミ箱へ棄ててしまいたくなる。けれどそれを思いとどまらせたのは、贈り物を選んだときに脳裏に描いた姿で、贈り主として名乗らなければ良いだけの事だと無理矢理自分を納得させた。
    「……すげえ量だな」
     忍び込んだ魔法薬学室のデスク 2496

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