真夜中のかくれんぼ 冷えた頬に目が覚めた。
薄目に開けた視界の中、暗闇と家具の輪郭が淡く交わり、耳がはたはたとカーテンの遊ぶ音を捉える。
寝返りを打てば、窓から差し込む光が繊細な少女のシルエットを浮かび上がらせていた。
「りおん?」
「あ、ごめんくじょうくん。起こしちゃった」
振り向くその顔は月光に照らされて陶器のようにも見える。
薄い玻璃のような髪は柔らかく波打ち、細い指と真っすぐに伸びた足は窓枠の額縁に収まらない。そんなものに収まる筈のない彼女を、自分たちはよく知っている。
(俺たちの愛した莉音だ。)
「ん。だいじょうぶだ。眠れないのか?」
「ううん」
「そうか」
こうしたかったの、とでも言うかのように窓枠に寄りかかったまま応えるりおん。
節々が痛む体を起こしてベッドの上に座り込む。寝起きをよそおって、毛布を巻きつけたままゆっくりと窓辺に近寄った。
「寝てていいよ」
「俺が、起きたかった」
「そっか」
自然と笑う彼女に安堵した。今日は無理をしていないらしい。
今この部屋には、静寂どころか喧騒さえ引き裂く残りの2人はいない。
どこに行ったのかなど今更問う必要もない。お互いにそれがわかっていて、それでも夜を起こさないようにひそりと話す。
彼女の指先がきゅと握りこまれるのを見て毛布を渡した。ありがとう、と彼女が笑う。軽くため息を吐いた。
体が冷えて、でも頭は冴えて。まだベッドには戻りたくないと思う。
「そうだ、りおん」
「なあに? くじょうくん」
いつも通りにこたえるりおんに、ちょっとした提案。お前の邪魔をしたくないのだと。俺もそうだ、と。
「2人から、隠れないか? この部屋、それか、窓の外か」
あまり遠くに行くのは心配をかけるから。と、隠れるには少し不安だが、安全な場所を。
その提案に、ぱっとりおんの目に光が弾けた。
「うん。どこにしよっか」
差し出された手を取る。冷え切った手に熱を移すようにしっかりと握る。
「どこにしようか」
思わず声が跳ねた。笑い声が重なる。
手に手を取って隠れられる場所を探す。
2人で隠れられる場所は限られるけれど。
「あっ、ここに人形を置くのはどうかな?」
「うん。そこなら、誤魔化せそうだ」
「うん! じゃあ置くね! ゆうはすぐにわかっちゃうかな」
「ん。そうだな。るぱんは、りおんだと思いそうだな」
「ふふっ、そうだね。じゃあ、ちょっと頑張ってもらお」
少し手の込んだ人形にりおんが魔法をかけて、急いで当たりを付けた場所に隠れた。
先に入った俺の膝の間にりおんが収まって、ひそひそと話しながら2人が帰ってくるのを待つ。
きっと2人が帰ってくる前に寝てしまうだろう。この暖かかさが心地よかった。