あなたのため千空は森の中で一人、草を集めていた。
復興へと向かう今日、服も石化前の時代のようになりつつあるなか、人類を救うと石化の謎へと仲間と歩んだ頃の懐かしい服を身にまとい、陽が差し込んでキラキラと輝く緑に目を凝らす。
きょろきょろと見渡し、見つけては嬉しそうに大切に摘んで腰の袋に入れた。ひとつ、またひとつと摘みながら森の奥へと進んでいく。進むにつれて陽が届かなくなり緑が暗くなる。足首で感じる空気も少しずつ冷たくなっていく気がした。暗い緑の中、キラキラとしたものが目に入り、あった!と喜びで声を上げながらしゃがんで摘もうとしたとき
「そっちは危ないよ」
知った声に呼ばれ、肩がぴくりと反応した。
「帰ってきてたのか」
迷わず振り返って返事をすれば、小さな川を挟んだ先に思った通りの人がいた。スーツ姿にマントを羽織るその姿は、森が似合うようで似合わない。
「何をしているんだい?」
「見りゃわかんだろ。草取ってんだ」
千空は袋から草を取り出して、誇らしげに司に見せた。
この草は薬になる、この草は動物には毒になる。楽しそうに嬉しそうにひとつひとつ説明する千空に司は穏やかな笑みを浮かべた。
「うん。さすがだね」
「だろ?薬に関しては任せやがれ」
ありがとう。とほほ笑む司に千空は照れたように頭をかいた。
「みんなが心配するから帰ろう」
そう手を伸ばす司に、千空は戸惑いながら振り返り薄暗い森の奥を見つめる。
きっとこの先にもっといいものがある。それがあればきっともっと役に立てる。仲間を守ることができる。もう少しだけと願おうと司を見れば川に入ろうとしている姿が目に入った。
「入ってはいけません!!!」
そう叫ぶ千空の声に司は足を止めた。もう少しで川の水に付きそうな足の裏がひんやりと冷たい。声にしたがい地面に足を戻して、もう一度、千空に声をかけた。
「おいで。一緒に帰ろう」
千空はいそいそと司のもとへと向かった、草を踏み、地面を踏み、陽の当たる場所にでて川へと迷わず入る。靴が濡れることも気にせず、くるぶしまで浸かりながら歩いた。
「おかえり」
司の目の前まで来た千空は、髪をなでる大きな手に目を細めた。
「どんな草が取れたのか今日も聞かせてくれないかい」
「もちろん!今日はやっと司さんにお渡ししたかったものをみつけたんです!」
嬉しそうに大事そうに草を見せながら、高揚を隠すことなく話をする千空と並んで、司は森の外へ向かって歩いた。いつも以上に嬉しそうな声に司も自然と笑みがこぼれる。
「嬉しいよ」
笑みと共にこぼれた司の声に千空は驚いた顔で見上げた後、嬉しそうに悲しそうに眼を細めた。
「おけぇり」
「うん。ただいま」
読みかけの本を閉じ、森から一人でてきた司を千空は迎えた。スーツに白衣、短いマントをまとった姿で先ほどまで読んでいたであろう本を片手でひらひらと振る。
「今日はなんだって?」
「草をくれたよ」
司が手のひらに乗せて、千空の前に出せば興味津々で観察し始める。
「知らねぇ植物だな」
「君でも知らないことが?」
「んなもん、当たり前だろ。素手で触って大丈夫なのか?」
「さぁどうだろう。でも、彼がのせてくれたから大丈夫だと思うよ」
「とりま、ゼノせんせにでも見せるか」
ラボに詳しいやついるだろと、森を背に歩きだす千空に司は続いた。司が千空の隣でもらった草を大事に袋に詰めていると視線を感じて千空を見る。
「嬉しそうだな」
「え?」
「口角あがってんぞ~」
無意識だった司は口をもごもごさせて頬を戻そうとする。
「なんで俺なのか今度聞いてきてくれねぇか。間違ってついて行きそうって苦情が出てんだわ」
「やっと見つけたって言ってたからね。うん。もう会えないかも」
「そいつの目的は知らねぇが、すぐ次を探しだすぞ。専門家の欲望なめんなよ」
「そうか。うん、君の声で司さんと呼ばれるのも悪くないからまた会いたいな」
「変な扉あけてんじゃねぇぞ、司さん」
「おしい。もっと可愛く」
「こっちがオリジナルなんだが?」
笑いながら歩く二人の背中を嬉しそうに見送り、千空はまた森の中へと入っていく。
司さんに怒られないように、司さんの役に立てるように、心配かけないように探し物を再開した。