ご主人様はお優しく、賢く、素敵。そしてとても紳士的だ。
その素晴らしい人間性を称える気持ちが確かにありながら、ニェンはいつもどこか割り切れない感情を抱えていた。
――ルーサー・フォン・アイボリーがもっと、感情的で不平等的な人物であったなら。役に立つ自分は、彼からの慈愛をより多く得られているはずなのに。現状、決して満たされているとは言い難い欲求を燻らせながら、ニェンは度々そんな空想に耽った。
つい先日、新たに人間の女を家族に迎え入れたことについてだって、ニェンはなかなか受け入れることが出来なかった。
ルーサーがどこからか連れて来て、名前まで与えてしまった。家族には良くするように、と自身の瞳ににこやかなまぶたを貼り付けて。そうなるともう、どうしたって、忌々しい害獣にするように人知れず排除というわけにはいかなかった。
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