「常闇くん」
夕陽に照らされた鉄塔の上、師匠に報告を入れて仕事から上がろうとしたときのことだ。呼びかけと同時に何かが放られた。前触れのない飛来物を、新米ヒーローは黒影に頼らずパシリと捕まえる。ナイスキャッチ、とホークスは満足げだ。
握った手の内には硬い感触。指を開けば、スポーツモデルの腕時計が鎮座していた。
「あげる」
「……は?」
「俺のお古で悪いけどね。精確さと頑丈さは保証する。ヒーロー稼業にも耐えるから、ガンガン使い潰してやって」
目を白黒させる常闇の頭に、今朝方メッセージアプリの「A組」のグループに押し寄せてきた祝いの言葉がやっとで浮上した。
改めて掌に視線を落とす。銀の時字がオニキスに似た文字盤に乗っている。質感も色合いも、丁度ホークスの耳元を飾る石そっくりだ。ところどころに抜けを設け、精緻な内部機構を覗かせる黒。矯めつ眇めつすると、そこには翼の図案が浮き上がる。時針と分針も黒で統一されているのだが、針に施されたマットな赤の縁取りに遊び心があった。
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