被害者は語るあいつの部屋からはいい匂いがする。
寮には備え付けのキッチンはあるが、好き好んでそれを活用するのは余程の料理好きくらいで、大抵は食堂だったり購買部で買ったパンやらカップ麺で過ごす。今後の勉強のためにと家庭科室を使う生徒もいるらしい。
あいつは博士の息子で有名で、何やら気難しそうな雰囲気が誰も寄せ付けなかったクラスメイトだったが、ここ最近は肩の荷が降りたように快活に笑い、今までの時間を取り戻すように勉強に打ち込む姿を見る。
その時に俺は料理好きなことも知った。
あまりアカデミーに来なかったせいで気にしなかったが、ここ最近は普段食べ慣れた炭水化物以外のすごくいい匂いがいい感じの時間に漂ってくるもんだから男子寮は飯テロの餌食になる。普段よりも食べる量が増えた気がするからこれからの健康診断が怖い。
コンコンとノックする音が聞こえた。
寮は壁がそんなに厚くないから隣や廊下の物音はよく聞こえる。
「お、ちょうど良かった。今できたぜ」
「ほんと?わー何かな…お邪魔しまーす」
あいつの出迎える声と女子の声だ。
そう、あいつはいつの間にか女子を部屋に連れ込んでは毎日飯をご馳走している。
二重の意味で羨ましい。美味しいご飯に女子だと!?悔しさで明日用に取っておいたポテチを開けた。
「なんか毎日来ちゃって申し訳ないな…」
「気にすんなって。俺も練習になるし、野菜買い込んじまうからちょうどいいし」
「うう…もうそうやって甘やかすから家みたいに寛いじゃうじゃん…」
「今度からおかえりって言ってやろうか?」
くそ!B級サメハダー映画で真っ先に襲われるカップル見てやる!コーラが進むなぁ!リア充だいばくはつしろ!!と思いつつ、毎回遅くても10時くらいにはエントランスホールまで送っていくあたり清らかな関係なんだろう…。今日も男子寮は敗北感に染まった。
後日、博士の息子と話す機会が出来た。
「彼女ォ!?いや、そんな、あいつは親友だ!宝探しの時に助けてもらった大事なやつなんだ。…ただ、まあ、俺、家が家だったからさ、おかえりとかただいまって言える相手がいるのはすげー良いなって思うよ」
「は?付き合ってねえの?あれで?(いい話だな。親友大事にしろよ)」
「穏やかな顔で暴言吐かれた…」