antidote ん、と小さな声。緊張で力の籠る唇から震えが伝わり、黒々とした睫毛が揺れる。
「Darling……イサミ」
そんなに怖がらなくていいと教え込むように親指の腹でやわい唇を撫でた。
こんなにも美しいのに本人ばかりがその輝きを知らず、無頓着に放置され続けてきた肌を丁寧に整えたのはスミスだ。ボディやリップでクリームを使い分け、決して傷つけないように優しく擦り込む手に「お前って結構マメだな」とすっかり感心するイサミを何度笑顔で誤魔化したことか。まさかこんな事をするのは――スミス自身さえも除いて――イサミだけだよと言えないのは、全てはスミスの為の下ごしらえだからだ。
スミスの手によってスミスの為に磨かれた皮膚。だから、触れる権利は自分にだけあるとスミスは存分に堪能する。何度か撫でさすれば躊躇いながらも口は薄く開いて白い歯が覗く。健康的に焼けた褐色気味の肌に白さが映えて、スミスは感慨に耽った。
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