よお〜社長、やってる?
そんな居酒屋に入るテンションで和也が事務所の扉を潜ってきたのは、裏カジノの営業時間がとうに過ぎた深夜二時だった。
村岡といえば事務所の灯りをほとんど落としてデスクに一人向かっている最中で、しかもその業務がなんというか、平たく言えば帝愛関係者にあまり見られたくなかったものだから、慌てて書き込んでいた書面を裏返す。
それから立ち上がって自らの頬を叩いた。笑顔を貼り付けるためである。
「どうされました、坊ちゃん。こんな時間に」
「おいおい、こんな時間に訪ねてきたオレが非常識みたいな言い方すんなよ」
「いえいえそんな、滅相もありません……!」
もうそろそろ施錠して帰ろうと思っていたのに、こんな時間に訪ねてきたお前が非常識に決まっているだろうが、なんて口が裂けても言えはしまい。代わりに村岡は貼り付けた笑みをよりいっそう深く形作った。めっそうもありませんめっそうもありませんめっそうもありません。怒りを抑えるために、頭の中で念仏のように何度も唱える。
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