怖い話マイハン♀編何、やたらと集まって。珍しい面子じゃない。
怖い話?
え、どっち?物理?心霊?
アハハ、ハンターあるあるよね。『小石に躓いたら頭上を炎弾が通過した』とかの危機一髪系。
幽霊話ならゴコク様が上手いわよ、今度……え、私?
あるっちゃあるけど……。うーん、そんな大したモンじゃないわよ、あんまり期待しないでよ。
人間には利き手と同じで、利き目と利き耳があるって知ってる?人によって違うのよ。右手が利き手の人が、視野は左に頼ってるとかもあるらしいわ。
私は全部右なのよね、だから無意識に身体の右半身を庇ってしまうの。よく教官に叱られたわ……まあ、それは置いといて。
今回のは耳の話よ。
水没林のピラミッドだけど、相当古いものだし、何のために作られたものか伝わってないじゃない。当時の王さまのお墓とか言われてるけれど、棺も見当たらないし、でもお社にしては人が集まりにくい形と場所でしょ。ヘンな建物よね。内側に入ったこと何度もあるけど、あそこ音の響き方が独特なのよ。なんか妙だとは思ってたんだけど。
その時は迅竜の討伐に行ったのよ。
一度当たって、それなりに痛めつけて相手が逃げたところで、雨足が急に強まってね。それまでは小雨だったんだけれど。動きにくいし視界も悪いし、手近にあったピラミッドの中で雨宿りしながら体勢を整えてたの。フッと風が抜けてね。怪我の手当もポーチの整理も終わってたし、まだ雨止まないし、暇だったから何の気無しに風が吹いてくる方へ歩いてったの。妙な風だったから気になったのよ。変に生臭くて、生温い風。
石壁に足音が反響するのを聞きながら通路を歩いて、どん詰まりの小部屋に着いたの。それまでにも何度か入ったことある部屋だったのに、その日はなんだか暗くて、イヤな感じがしてね。臭いし。
腐敗臭がしたから何か生き物の死体でもあるかと思ってたのに何にも無いし、産毛が逆立ってぞわぞわするから戻ろうと思ったら、通路から足音がするのよ。
「誰?」って声かけたけど、誰もいないの。向こうの部屋まで見通せる一本道から音だけするの。それだけでも不気味だったけど、よくよく聞いて血の気が引いたわ。
武装した女の、ブーツの靴音。一番良く聞く足音だから間違えるわけないのよ、私の足音よ。
まあ怖かったんだけどさ。その時私怒ってたの。戦闘中にナルガクルガのトゲが避けきれなくて足に刺さって、手当ては済んでたけど、痛くて情けなくて苛々してたの。だから落ち着きなく動き回ってたんだけど。
で、怖がるのもなんだか恥ずかしいし、腹も立ってるし、ボウガン構えて銃口向けて、通路にぶっ放したのよ。レベル2貫通弾を3連発の速射で。
散弾ほどじゃないけど、結構な音がするのよ。そのうるさい反響が止んで、左耳で……、ええと……ボウガンを身体の右側で使うから、右耳は発射音の残響でしばらく使い物にならないワケ。屋外ならそんなに問題無いんだけど、石造りの小さい部屋だったから、壁から跳ね返った分もモロに食らっちゃうのよ。
だから左で気配を探ったら、私を中心にして部屋をぐるぐる歩いてる足音に気付いてね。目には何にも見えないんだけれど。なんかブツブツ言ってる声もして、すぐ近くだし、情けないけどびっくりして動けなくなっちゃったのよ。
部屋のど真ん中で耳澄ませて固まってる私の周りを、足音と声がぐるぐる取り囲んで、目がチカチカするくらい怖かった。そのうちに右側の耳鳴りが止んできたの。
そしたら、何言ってるのか段々分かってきたのよ。右の方が人の声って聞き取れるのよね。
『返せ、返せ』ってさ、私の声で。ずっと呟いてるの。
で、返すも何もそいつのものなんて何も持ってないし、なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだって腹立ってね。「ふざけんな」って怒鳴ろうとしたら、声が出ないの。口は動くし息もできるのに。
それで、意味が分からなくて混乱したし本当に怖かったけど、そのまま帰るわけにもいかないし、うるさいし話通じそうに無いしそもそも話せないし、どうしたもんかと思ってたら、フッと声が止んだの。
足音が目の前で止まって、見えないけど気配がする。そこに向かってボウガンで殴りかかったら何か、一瞬やたらと柔らかい感触がして……重い綿菓子みたいなの殴ったような。そしたらそれきり気配が無くなって声も出るようになったから、外に出て迅竜の討伐して帰ったの。
ね、あんまり怖くなかったでしょ。
なんだったのかしら、アレ。
もうちょっと怖がれって?
アハハ、怖がって動けないハンターなんてすぐ死ぬわよ、ねえアヤメさん。あの時居たのが幽霊、……なのかしら?なんでもいいけど、そんなんじゃなくてモンスターだったら、私この場にいなかったでしょうね。フロギィみたいな小さいのでも、喉笛噛まれたら一発だもの。
うん、なんかね、恐怖が別の感情に置き換わるんですって。生き残るために無意識にね。楽しくなる人もいれば怒る人もいる。私は怖いと腹が立つのよ。訓練中、何度か教官に斬りかかって返り討ちに……うん、なんでもない。
……あーそういえば、あの時立ち止まった気配ね。多分、ボウガン構えてたわね。見えなかったけど、音からして、足を開いて腰を落として、右に重心が寄ったわ。
殴るのがもう少し遅かったら、撃たれてたのかも。レベル2貫通弾3連発。