寝起きが悪い性質だという自覚はあった。
あれだけ飲んだのだから、尚更。
夢うつつのまま、暖かな布団の中で伸びをして身体を起こす。昨夜は後輩に飲みに誘われ、彼女の家に上がり込んでたらふく飲まされ、そのまま泊まったのだった。まだ目が開かない。頭も痛いし喉も痛い、あと胃が辛い。全体的に身体が重い。完全に二日酔いだ。
「起きちゃった?」
静かな声がすぐ前で響く。唇に柔らかいものが当たり、甘く体温が匂った。そっと押し戻され、柔らかい布団に再び沈み込む。
「まだ寝てて。無理させちゃってごめんね?」
ちゅ、ちゅ、と頬や鎖骨の辺りを啄まれるのを、ぼんやり受け入れる。彼女の長い髪が滑り落ちて素肌に広がる。滑らかで冷たい感触が心地良かった。
「お水、ここに置いておくわね」
寝衣を肩まで掛けられ、身が離れる。少し寒い。もぞもぞと掛けられた布を身体に巻き付けていると、抑えたクスクス笑いが耳をくすぐった。髪油の匂いとともに声が遠ざかっていき、
「ごちそうさま♡」
と言い残して外へ出て行った。
アヤメは彼女の匂いのする布団と寝衣に包まれ、とろとろと微睡む。うっとりと夢と現の境目を越えかけた瞬間、急に我に帰りがばりと起き上がった。
「…………………は?」
見下ろせば己の一糸纏わぬ身体の、あちこちに残された鬱血痕。
記憶の波間から浮かび上がってくるのは、……暗い天井、蠱惑的な笑顔と優しい声音、指と舌が這い回る感触、己の喉から出る甘い声、……口付けを受け入れて、……彼女の腕にしがみついて、……頭を撫でられながら。
「…………………………え?」
冷や汗を浮かべてただ一人、呆然と彼女が出て行った玄関を見る。まさか、まさかそんな。まさか。