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    aneniwa

    @aneniwa
    マイハン♀ミドリさんの話しかしません

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    POIPOI 37

    aneniwa

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    ポメガバ。ハン♀→アヤ。
    呟いてたポメ妄想の続きなので、もしこれだけ読む方がいらしたら文脈がわからないかもしれません、ごめんなさい。

     『疲れたのならゆっくりしていけ』と、アヤメさんと共に里長の屋敷に招かれ休ませてもらえることになった。遠慮なく縁側に座布団を置いて寝そべり、ゆったりと寛ぎ倒している。黒い毛並みが陽光を吸うので暑いくらいに身体が暖まり、それのせいか疲れからか、ずっと眠気を感じていた。けれども眠ってしまうのは勿体ないと、頑張って瞼を開けているところだ。
     近頃幾度となく意図的にポメ化してきたため、この姿にも随分慣れた。何となく少し犬らしい仕草をしてみたくなって、眠気を払うのも兼ね、身体を丸めて後脚で耳の後ろを掻いてみる。

    「痒いの?」

     座敷にいるアヤメさんが声を掛けてくる。まだ虫も少ない初夏のこと、障子は全て開け放たれていて風通しが良い。卓袱台に頬杖をつく彼女の銀の髪が、風鈴の音と共に揺れる。少し笑っているのは気のせいだろうか。
     別に痒くてした動作ではないが、そろそろ甘えたくなっていたところだ。「くうん」と鼻を鳴らして、期待を込めて見つめてみる。

    「おいで」

     正座に座り直したアヤメさんが、膝を叩いて呼んでくれる。即座に立ち上がり、座布団を踏み付け畳を蹴って彼女の膝に収まる様は、側から見ればまさしく仔犬のようだっただろう。太腿の上でくるりと回って背中を向け、特に痒くもない後頭部を(ここして)と差し出し、(痒いの)とぷるぷる身体を震わせれば、今度こそアヤメさんは明確に笑った。

    「ふ……」

     抑えた低い声が鼓膜を擽る。笑ってくれたのは嬉しいが、流石に少しわざとらし過ぎただろうかと不安になった。顔を見ようと上げかけた鼻先がそっと押さえられる。

    「ほら、動かない」

     ハンターらしく短く揃えられた爪が、カリカリと頭皮を掻く。むず痒い心地良さに襲われて、今度こそ本当に身震いをした。もし今人間の姿だったら、「うひィ」とか妙な声を溢してしまっていたかもしれない。いや、この人と人間の姿でこんなスキンシップをしたことはないけれど。してみたいとは思っているけれども、流石にそれは言い出せやしない。
     ……何か寂しいような心地になった。いや、いつだって寂しいのだ。それがちょっと、身体が弱っている隙に顔を出しただけだ。

     ……もうちょっと甘えてもいいだろうか。
     そっと後ろ脚に力を入れると、後頭部から手が離れた。向き直って、身体を伸ばしアヤメさんの胸元にもたれ掛かってみる。恐る恐る視線を上げて覗き見た瞳は、まだ暖かい色をしていて、常より小さな心臓がどくどくと喜びに高鳴った。

    「甘え上手になったじゃないか」

     揶揄われて急に恥ずかしくなり、でも離れ難くて、目を瞑って顔を押し付けた。声に出さずに彼女は笑う。喉の奥でくつくつと。その小さい振動と暖かな鼓動が頭蓋骨に響いて、とろけそうに幸せだった。
     耳を後ろへ撫でつけるように、毛並みに沿って背中まで撫でられる。古傷やタコがたくさんある手は、日陰で風に当たっていたからか少し冷たくて心地良い。この手が好きだった。彼女の、狩人としての歴史が堆積した手。初めて会った時、欄干に置かれたこの手を見て、驚きとともに敬意を覚えたのだった。ぱっと見は綺麗なお姉さんが、師匠と同じ手をしていたものだから。

     同じ時を過ごせば過ごす程に大きく育っていった敬愛と信頼が、恋情に変わったのはいつの事だっただろうか。少なくとも自覚したのはつい最近で、気づいた時にはもう自分でもびっくりするくらい好きだった。それなりに場数は踏んできたつもりだったけれど、今までの数々の出会いが霞むような恋慕で……でも、経験を積んできたからこそ、なんとかこの感情に振り落とされずに済んでいる。つまり、普段は後輩として笑って過ごし、距離の遠さに耐えきれなくなったらポメとして存分に甘えることでガス抜きをしているのだ。

     そう、伝えるつもりはなかった。彼女もまた私のことを信頼してくれているが、それ以上の感情を向けてくれるとは到底思えない。素っ気なく見えて優しい人だから、思いを告げればきっと悩ませてしまうだろう。
     それに彼女は、近々里から旅立ってしまう。傷を癒やし新たな武器を手にして、上位ハンターとして彼女らしく生きるために。自分に里を離れる気がない以上、一緒に居られる時間は限られているのだ。ならば、わざわざ今の関係を壊したりはしない。

    「アンタの毛並みは撫で心地が良いよね。ずっと触っていられるよ」

     私もずっとこうしていたい。これ以上は望まないから。
     言えない代わりに、身体の力を抜いてアヤメさんの膝に伏せる。言うつもりはない。でも、その代わりほんの少しだけ、今この時だけ甘えさせてほしい。先輩と後輩の距離感ではないけれど、今の私は小さな可愛いワンちゃんだから。少しの間だけ許してほしい。

     狩人の手が頭を撫でる。繰り返される柔い刺激と、毛皮と服越しの体温が眠りを誘う。
     ……眠ってしまうのは勿体ない。けれど、抗えなかった。









     仔犬の姿をした後輩がすっかり寝入ったのを確かめて、アヤメはそっと、懐から紙の束を取り出した。里に戻る直前に拠点としていた街のギルドマネージャーからの手紙だ。アヤメの怪我の完治とハンターとしての新たな門出を祝福し、彼女が街に戻った折の支援を約束する内容だった。
    『祝儀として宿代を一年分持つ』などと景気の良いことを述べるあたり豪気なあの人らしいと、懐かしさに目元を弛めるアヤメは、ふと視線を下に落とす。仔犬は丸い腹を規則的に膨らませたり萎ませたりしてぐっすり寝ていた。黒いふわふわの毛皮にそっと触れる。

    「泣くかな」

     多分、いや確実に泣くだろう。それでもきっと引き止めはしない。この子はアタシのことをよく分かっているから。後輩がそうであるように、アヤメ自身も自分の生き方を愛していた。
     ハンターとして生き、いつか身体を土に還す。選べるなら、それは狩場でが良い。

     彼女の意思を尊重しこのまま気付かぬフリで別れるか、それともきっちりケジメをつけてやるべきか。次に彼女がこの姿になるまでに、よく考えて決めておかなくてはならない。奔放だが健気で可愛い後輩の傷が、少しでも浅く済むように。

     きっと今生の別れになるだろうから。


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