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    KiyuKi03636

    @KiyuKi03636

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    KiyuKi03636

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    今週のワンドロお題の「独占欲」何書こうかなと考えてたら浮かんだけど、あまりにも私史上一番くらいの赤黒い感じのストーリーになってしまったから当日は違うやつを書こうと勢いで書き上げてしまった……嫉妬や独占欲はやっぱり綺麗なだけじゃいられないけど、可愛いよなぁと。

    アタシの。俺の。 その一部始終を見てしまった。
     確かこの春からESに入って来た新人の女の子。その子がたまたま廊下の小さな段差に躓いて転けた先にいたのが泉ちゃんだった。ただそれだけのこと。
     角を曲がって歩いて来た泉ちゃんからは、その子が見えなかったんだと思う。突然ぶつかられてビックリした顔をした後、少しだけその顔が歪んだのをアタシは見逃さなかった。
     泉ちゃんのシャツに顔を埋めた女の子はすぐに体勢を立て直しペコペコと何度も頭を下げて謝った。その時には泉ちゃんの表情はいつも通りになっていて、大丈夫だからとかなんとか言ってなだめているんだろうなと仕草を見て思った。
     本当、丸くなったわよねェ。
     そのまま観察を続けていれば、女の子が去って一人になった泉ちゃんがシャツを見てため息をついたのが分かった。
     あ〜あ。そのシャツお気に入りなのにね、捨てちゃうんだ。
     そんなことを考えていたら、いつのまにか泉ちゃんが目の前に立っていた。
    「あら、泉ちゃん。浮気?」
    「よく言う。ずっと見てたくせに」
    「バレてた?」
    「隠れる気なかったでしょ」
    「だって面白いじゃない」
    「どこが。見てよコレ」
     思った通り。女の子の顔が埋まっていた辺りに可愛らしいピンク色のリップマークが付いていた。
     多分これが転けた勢いでかけられたコーヒーのシミだったら、泉ちゃんは持ち得る限りのスキルを駆使して元通りにするんだろうけど。
    「お気に入りなのにね、残念」
    「他人事だと思って」
     お気に入りだったのに、とか、同じデザインのなんて絶対見つからないじゃん、とか次から次へと文句がその口から溢れてくる。
     そんな泉ちゃんにアタシは絶対、文句言うくらいなら捨てなきゃいいのに、とは言わない。ううん、言えないんだ。
     泉ちゃんの「潔癖」とも言えるそれは、たまに面倒だと思うくらいのものだったりするけど、こういうときアタシはその潔癖に心の中で感謝する。
     だって、他の人のリップマークが付いていた服を恋人が着てるなんて嫌じゃない? 例えそれがもう見えないものだったとしても。
     ただ、アタシと泉ちゃんのお気に入りが、アタシでも泉ちゃんでもない他人によって書き換えられるのも歓迎できない。
     泉ちゃんがこのシャツを気に入ってるのは誰よりも十分すぎるくらいに知っているし、アタシだってこれを着た泉ちゃんが好きだったから、できればこのまま着続けてほしいという気持ちがゼロなわけではないから余計に。
    「あ、そうだ」
     いいことを思いついた。これならどう転んだってアタシがその理由になれる。
     泉ちゃんの行動の理由。それをアタシに書き換えられるなら、このシャツの行く末は二の次でいい。





    ***





     なるくんは嫉妬は綺麗じゃないから嫌いだと言うけれど、俺はなるくんが見せる嫉妬が嫌いじゃない。むしろ、好きだと思っている。
     例えばほら。今も俺のシャツについたピンク色のシミと睨めっこして、他人のリップマークをつけたシャツを二度と俺に来て欲しくないって気持ちと、俺もなるくんも気に入ってるこのシャツをどうしたらお気に入りの座から引きずり下ろさずに済むかで頭がいっぱいって顔してる。
     こう言う時のなるくんはとても無防備だ。 思考に意識が全て奪われていて、仮に俺がその腰に腕を回したって……ほら、気づきやしない。
     目の前にいるのに放って置かれるという状況は楽しくないけれど、無意識にぷくっと膨らんだ頬や少し突き出された唇が可愛くてそれらをゆっくりと観察できるこの時間が俺は好きだったりする。調子に乗ったり、恥ずかしがって見せてくれなくなる可能性があるから、絶対言わないけど。
    「あ、そうだ」
     突然なにか閃いたらしいなるくんが小さく呟いた。
     そして俺がそれが何か聞こうとするよりも前に、なるくんの唇が俺のシャツに優しく落とされた。
    「これでこのリップマークはアタシがつけたものってことになるでしょ?」
    「……いや、ならないでしょ」
    「え〜」
    「え〜、じゃないし」
    「だってこれ気に入ってるんでしょ?」
    「でもこれ着るたびにさっきのこと思い出すのやだし」
    「だから、これはアタシがつけたの」
     そう言ってもう一度なるくんは同じ場所へ口付けた。
    「アタシが転けそうになって、泉ちゃんが助けてくれた」
     そうでしょ? と否定は許さないとばかりの雰囲気を纏った言葉が耳に届き、目には小首を傾げ上目遣いに見つめてくるなるくん。
     肯定を示す以外の選択肢はなかった。
    「でも……」
    「ん?」
    「このシャツは捨てるかなぁ」
    「なんでよ」
    「俺のなるくんの唇を勝手に奪ったシャツより、なるくんが選んでくれる新しいシャツの方が俺は着たいから」
     そう言えば、不服そうだった顔に花が咲いたような笑顔が弾けた。
    「じゃあ、今から買いに行きましょ!」
    「今から?」
    「そう」
    「この格好で?」
     ワザとリップマークが良く見えるように少し裾を引っ張って主張してみれば、思った通り、アタシの上着着る? と返ってきた。
     返事はもちろんイエス。
    「じゃあジャケット取りに行こ。事務所でしょ?」
    「そうよ」
    「俺のはなるくんが着ていいからね」
    「自分のあるんじゃない」
    「今朝の俺の格好忘れたの?」
    「…………寝ぼけてたからよく覚えてないわ」
    「あっそ。まぁ、いいけど。多分今日なるくんが着たいんだろうなぁって思って違うやつ着て来たの」
    「良い口実ができたってわけね」
    「そういうこと。ほら、早く行くよぉ」
     繋ぐつもりで手を出せば、その手を無視して腕になるくんの腕が絡んできた。
    「ね、泉ちゃん。アタシの服も選んでよ」
    「いいけど?」
     この前ちょうど新しいブランドが気になるって言ってたしね。
     せっかくならお揃いの服でも買って、見せつけてやるのもいいかもしれない。
     なるくんは俺のだと。俺はなるくんのだと。
     お姫様相手にそんなことはしないけれど、例えば今日ぶつかってきた下心丸出しのESスタッフのようなやつらには良い薬になるだろう。
     なるくんに同じようなことをしたら、許さないから。
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