……作業中。
今日も今日とて、隣の男はぺらぺらとよく喋る。よくもまあ、あんなに滑らかに舌が動くものだ。
けれど、高すぎず、低すぎず。
やわらかいトーンのその声は、耳に心地よくて。ラジオみたいだなと思う。
そうなると、構造自体も気になってくる。
メンタリストを自称するだけあって、生半なことではこの男は動揺しない。
どう言った理屈でこんなに淀みなく話すのか。何をすれば止まるのか。
そのスペックを知りたい。
……扱いがすでに人間枠から外れつつあることに気づき、ドイヒー!と言う男の声が聞こえた気がした。
だが、しかし。
この実験。……唆るぜ、これは。
そう思い立ち、隣に視線を向ける。
「 ………… 」
芸能人なだけあって、意外と整った顔してんなあ、などと、普段思いもしなかった思考が挟まって、なんだかバグを起こした気分だ。
……なんだこれ。
まあいい。この不可解についても、まとめてトライアンドエラーと行こう。
ゲンの頸をがしっと掴み、そのまま向かい合うように引き寄せた。
「 ──わっ……っと⁉︎ 」
流石に驚いたようで、じっと表情を観察している千空に、戸惑った表情を向ける。
「 え?なに?どうかした?……なんか怒ってるの?千空ちゃ…… 」
その表情をつぶさに観察しながら、みなまで言わせず。3.6センチ下からくちびるを重ねた。
「 ん!?……んん〜〜〜〜……ッ⁉︎ 」
その状態で、たっぷり一分。
ようやくくちびるを離すと、やや上気した顔で、ゲンは不思議そうにこちらを見ている。
「 ?????? 」
言葉を忘れたかのようなリアクション。
青みがかった夜色の瞳だけが、潤んでゆらり揺れていた。……これは前から思っていたことではあるが、星を散りばめた夜空のようだ。なんて、本人にはとても言えないけれど。
「 や〜ぁっと静かんなったな。おしゃべりメンタリストがよ」
いつもの皮肉めいた笑みで言うと、心外そうにゲンは眉を顰めた。
「 はぁ⁉︎ そんなことなら言ってくれればいいのに……あっ!さてはまた俺で実験してたでしょ⁉︎ 」
「 別にいいだろ、減るもんじゃなし」
さらりと言うと、むっとしたように。
「 減る!俺のは減る!」
などと言うものだから、つい。
意地悪をしたくなってしまう。
「 ほーん。……で、一介の男子高校生にキスされたら、ゲン先生のナニが減るんだ?ご教授願おうじゃねぇか」
ゲンはぐっと言葉に詰まって。
しばらく逡巡したあと、頬を染めて顔を背けた。
「 ……俺の純情が減るもん」
思いもかけないリアクションに、一瞬固まっていると。
「 スキあり」
言葉と同時に、しっとりとやわらかい感触が唇に触れる。
「 !!!???」
視線の先のゲンは、にんまりと余裕の表情を浮かべていて。
……どうやらしてやられたのはこちらの方らしかった。
けれど、それからはなんとなく。
互いに、戯れに唇を重ねるようなよくわからない関係。